『高級レストランでナメられないためのマナー集 vol.1』タケマシュランさんの日記

タケマシュラン

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日記詳細

高級レストランには一種独特の雰囲気があります。「なんだか店に値踏みされているようで居心地が悪い」と感じる方が多いかもしれませんが、その通り、店は客のことを値踏みしています。

「お客様は平等に扱う」なんてのは大ウソです。レストラン業界には『ソワニエ(大切におもてなしするべき客)』という言葉があるくらいであり、一流の客や金払いの良い常連・重い客に対しては恭しく接し、どう見ても場慣れしていない一見客に対しては、人間だもの、おざなりな対応になるものです。

そこで、「高級レストランにあまり行ったことは無いが、ナメられたくはない」と考えるワガママな貴方のために、高級レストランにおけるマナーを整理しました。結構な長文となってしまったので是非ブックマークして頂き、必要に応じて読み返して頂けると幸いです。

基本的にフランス料理店を想定しながら記述しましたが、イタリア料理店でのふるまいに準用しても大きな問題は無いでしょう。また、より達人の域に達している諸兄やプロのサービスパーソンの目から見て、誤りや追記すべき点があればご一報下さい。随時修正させて頂ければと存じます。強制力は無いが価値がある、そんな素敵なマナーブックを、みんなで作り上げていきましょう。


【入店前】
■予約時の情報は具体的に伝えろ
高級レストランに予約ナシで飛び込むのは相当の達人かただの阿呆かのどちらかです。いずれにも属さない貴方は訪問前に電話で予約を入れるようにしましょう。ピークタイムは避け、アイドルタイムに架電するのがマナーですし、何よりミスも少なくなります。ネットやメールでの予約は互いの時間を拘束せず証拠も残るので便利です。

日時・人数・好き嫌いの有無などはレストランの予約係のほうから聞いてくれますが、誕生日祝いや重要な接待である旨は客のほうから伝える必要があります。

その際、「食後にプロポーズをしようと思うので温かく見守っておいて下さい」「仲直りのためのお詫びディナーなので、少しギクシャクした食事かもしれませんが気にしないで下さい」など、同伴者との関係性や状況を具体的にお伝えしておくと、それらの情報が開店前のミーティングでサービス陣に共有されるので、お店としてもチームワークで対処し易いです。

話は逸れますが、予約時の電話対応がイマイチなお店は、実際に訪問してもイマイチであることが殆どです。レストランの評価とは「予約の電話からお見送りまで」が基本です。旨くて安けりゃ良いってもんじゃない。


■ワインは事前に持ち込め
(※このような記事を手に取る初心者の貴方はワインの持ち込みなどにチャレンジしないほうが無難です。この項目は読み飛ばしてOKです)

事情があってワインを持ち込む場合、正面入口から入店し店員にホイっと渡すのは無粋です。お店側としても他のお客様に示しがつかないし、何より振動や温度の問題からワインをベストな状態で味わうことができません。したがって、本番の数日前にワインを持ち込むためだけに訪れたり、宅配便で事前に送っておいたりしたほうが良いでしょう。

ちなみにワインを持ち込んで良い事情とは「入手困難なレアモノ」「生まれ年などの特殊なヴィンテージ」「垂直飲み(同一銘柄の異なるヴィンテージの飲み比べ)」などに限られ、間違ってもお店のワインリストに載っているようなモノを持ち込んではいけません。


■最低でもジャケットと革靴を着用せよ
残念ながら人は見た目で判断されます。小汚い身なりであれば入店を断られる場合もあるし、臭いものには蓋をしろとばかりに厨房間近の目立たない席に通されたり、出入り口付近の騒がしいテーブルに案内されたりします。当然にサービスの優先順位は低くなるでしょう。同じ料金を支払っているのに、です。

したがって、男性は最低でもジャケットと革靴を着用しましょう。暑くても我慢。女性は男性に比べてドレスコードは緩いので、品の良いワンピでも着ていれば大体オッケーです。心配症な方は予約時にドレスコードについて確認しておくと良いでしょう。


■香水はつけるな
ワインの価値の半分は香りです。それを邪魔する香水をたっぷり振りかけてくるのは自殺に等しい。強い香水をつけているだけで「ああ、ワインに興味が無い人なんだな」と、お店からもホストからも判定されてしまいます。他の客にも迷惑であり、私は何度か「隣のテーブルの香水がキツい」という理由で席を代わってもらったことがあります。すなわちそのような人物は営業妨害といっても過言ではありません。フランス料理を食べる上で香水は百害あって一利なしです。


【入店から着席】
■女のコートは男が脱がせろ
一般的にはお店の方がコートを脱がせ預かろうとしてくれますが、そこはあえてホストである男性がその役割を担ったほうがカッコイイです。あくまでもホストがゲストをもてなしているという印象を植え付ける。もちろん男性が脱ぐ際はお店の方にお手伝い頂いてOKです。


■テーブルに着く前にお手洗いに行っておけ
ヘヴィなフランス料理では食事時間が3時間を超えることもしばしば。食事中に中座するのはエレガントでないため極力避けたいところ。したがって、食事をスタートする直前に膀胱を空っぽにしておくほうがスマートです。食事前に丹念に手を洗う最後のチャンスでもあります(フランス料理は手づかみで食べる機会が意外と多い)。


■常にレディ・ファーストを心がけよ
常に女性が優先されるよう振舞って下さい。女性にドアを開けて差し上げるのは当然のこと、館内を歩く際も自然に女性が前に来るよう促す。逆に言うと、女性はヘンに遠慮することなく堂々と先陣を切って歩いて下さい(もちろん先頭にはお店の案内人がいます)。

ただし例外として、階段がある場合は常に男性が下に来るように。具体的には降り階段では男性が先、昇り階段では男性が後ろです。これは女性が段差で転倒した際に男性が華麗にお姫様抱っこでキャッチできるようにするためです。


■女性を上席に座らせろ
女性(または接待される最も偉い方)を上席に座らせましょう。「上席ってドコだよ」という方でもご安心を。これは実に簡単で、女性は男性の前を歩いており、お店の方が最初に案内し椅子を引いた席が上席です。

基本的にはそのテーブルにおける最も奥の席が上席であり、例外的に夜景が自慢のテーブルであれば、その夜景を最も堪能できる席が上席となります。まあ、あまり深く考えずお店の方に促されるままに動けば良いでしょう。女性は男性に対して妙な気遣いを見せることはなく、店員が指定した席に堂々と着いて下さい。


■着席・退席は椅子の左側から
着席ならびに退席は常に椅子の左側からです。これは昔々の衣装の名残り。一般的に人間は右利きが多く、基本的に剣は左腰に差していました。そのため右側から椅子に座ろうとすると剣が邪魔で座りづらい。したがって自然と着席ならびに退席は椅子の左側から行うようになったのです。現代では非合理的なルールですが、そういうものだと割り切りましょう。


■テーブルの上にケータイを置くな
これは女性に最も多い減点ポイント。テーブルの上にケータイなど私物を置いてはいけません。そもそもテーブルとは皿の延長であり(パン皿が無い店はクロスの上に直接パンを置く)、皿の上にバイキンまみれのケータイを置くなど愚の骨頂です。


■椅子の背もたれは装飾である
背筋は椅子の座面に直角でお願いします。背もたれはありますが、あれには決してもたれかからないようにしましょう。男性の場合、少し浅めに座ったほうが背筋が伸び、両足で地面を踏ん張り易いことでしょう。決してラクな姿勢ではありませんが、エレガントに魅せるためのトレーニングだと思って頑張ってください。


■肘をつくな、ただし手はテーブルの上に置け
食事中に肘をついてはならないことは日本の小学校でも習います。ここではもう一歩踏み込んで、手は手首より上をテーブルの上に乗せるようにしておきましょう。理由は「テーブルの下に武器を隠し持っていませんよ」とアピールするためです。こちらも昔の名残りで現代では非合理的な決まりですが、そういうものだと割り切りましょう。


【食べ物を注文】
■食前酒はシャンパーニュが無難
着席して人心地ついた頃にソムリエが登場し、「お食事前にグラスのシャンパーニュはいかがでしょう?」と聞いてくるはずです。これには「お願いします」と答えるだけで満点。これ以上言うことはありません。

ここから先は「あのテーブルはタダモノではない」と思わせるテクニック。「どのような味わいのグラスがありますか?」と訊ねれば、ソムリエはなるほどこの方はワインに一家言ある人物だと認識してくれます。ポイントは「どのようなシャンパーニュがありますか?」とは聞かないことです。そう聞いてしまうと銘柄や造り手、製法などにまで話題が及んでしまい、貴方は馬脚をあらわしてしまい痛い客として認定されてしまいます。話題をあくまで味覚に限定し、相手の土俵に立たないよう気をつけましょう。

「ワインリストを見せてください」もいいですね。客のワイン選びに積極性が感じられ、ソムリエの気合が入る瞬間です。なに、難しいことはありません。後はふむふむと適当に頷きながら、最も安いシャンパーニュを注文すれば良いだけです(大体昇順でソートされています)。グラスのシャンパーニュは割高な店が多いので、泡が好きでそれなりの量を飲みたい方はボトルで注文してしまうのも一案です。

女性は「あたしはベリーニを」と、変化球を投げ込むのも良いかもしれません。ホストとソムリエに対し、あたくしちょっと知ってますのよアピールです。ただし食前酒に適したカクテルは限られている点に注意。オススメはベリーニ(白桃+シャンパーニュ)やミモザ(オレンジ+シャンパーニュ)、キール・ロワイヤル(カシス+シャンパーニュ)あたりです。


■ナプキンは2つ折りにしてループを手前にして膝に置け
食前酒の注文が済んだらナプキンを膝に置きましょう。間違っても首もとに下げてはいけません。それは焼肉屋のエプロンです。

ナプキンは2つ折りにしてループを手前にして膝に置きます。理由はナプキンで口元を拭う際に、折った内側の面で唇にタッチし、汚れた部分が外に見えないようにするためです。

女性がナプキンを膝にかけた後に、男性も膝におきます。ここにおいてもレディ・ファーストを厳守する必要があります。ある意味女性にはリードする義務があるので頑張って下さい。


■飲み物を注がれる時はグラスに触れるな
ニッポンのサラリーマン社会で育った貴方はついグラスを持ちたくなるかもしれませんが、フランス料理においてはグラスに触れてはなりません。というか、ただでさえ持ち手が定まらないワイングラスを持たれてしまっては注ぐほうも大変です。


■乾杯時にグラスを合わせるな
乾杯の際にグラスを合わせてカチンと鳴らしてはなりません。高級レストランにおいてはグラスも高級かつ繊細であり、割れてしまう恐れがあります。後述の「音を立てるな」にも通じる論点です。グラスを軽く持ち上げて目線を合わせ、軽く微笑む程度で充分です。


■メニューを熟読せよ
コース料理の場合、値段にしか興味がなくメニューをロクに読み込まない方が多いですが、サボらずじっくり読み込むようにしましょう。後のワイン選びのヒントになりますし、何より「値段だけじゃなく食材や調理に興味がありますよ」というアピールに繋がります。

アラカルトの場合はメインから選びます。メインを肉に決めたら前菜は魚介や野菜とするのが無難。メインを魚にした場合の前菜は肉や野菜です。アラカルトのポーションはコースの皿の倍近くあり、また、注文していない小皿もチョコチョコ出ることが多いので、普通は前菜1皿、メイン1皿で充分でしょう。基本的には食べたいものを注文すれば良いのですが、同伴者と同じものを注文したほうが会話も弾み記憶にも残り、話題として振り返り易いと言われています。

本場フランスではこのメニュー選びの瞬間に最も労力を注いでいるように見え、20~30分かけるなど当たり前です。その際に手ぶらだと間が持たないので、食前酒が重要な役割を担うことになるのです。「メニュー選びの最中にシャンパーニュが1本空いてしまった」のような客は超カッコイイです。


【飲み物を注文】
■ワイン・ペアリングが無難
ワイン・ペアリング(≒デギュスタシオン)が無難でしょう。料理ごとに合ったワインを提供してくれるのはもちろんのこと、何より予算が読めるのが有り難い。ソムリエとのややこしい議論も不要であり、初心者には堪らないシステムです。


■ソムリエに必ず伝えるべきポイントは『飲む量』『予算』
ワイン・ペアリングでない場合、ロクにワインリストも見ずに「料理に合うワインをお願いします」と下駄を全てソムリエに預けるのは避けたいところ。10万円のワインを持ってこられても、それが料理に合うのであれば文句は言えません。

ソムリエに必ず伝えるべきポイントは『飲む量』『予算』です。ほうほうと適当に頷きながらワインリストをペラペラとめくり、「白と赤1本づつを飲もうと思ってるのですが~」と『飲む量』を前置きした上で、「このあたりで食事に合わせるとすれば何が良いでしょうか?」とワインリストを指差しソムリエに意見を請います。「このあたり」で指差すのは産地でも造り手でもなく、価格です。これで満点。

「どのようなタイプのワインがお好みですか?」とソムリエが聞いてくる場合がありますが、あまり話し込むとボロが出てしまうので多くを語る必要はありません。「特定の好みはありません」と打ち返し、『飲む量』と『予算』は告げたので、ここから先はソムリエのお手並み拝見といった態度でOKです。

もちろん上級者となった暁にはワインリストをしっかりと読み込み、「ボルドーが多い。ボルドーに力を入れている店だな」「値付けが酒屋の3~4倍と割高だ。ここでワインをたっぷり飲むのはもったいない。泡1本に留めよう」のような判断を下すのもまた一興。


■注文したワインは記憶しろ
注文したワインの銘柄やヴィンテージ(生産年)は、ワインが到着するまでの間しっかりと記憶に留めておきましょう。「こちらでよろしいでしょうか?」と、抜栓前にソムリエがボトルを提示し確認を求めてくるので、記憶の中の銘柄やヴィンテージと照らし合わせます。ごく稀に誤ったボトルを持ってこられる場合があり、それに対してGOサインを出してしまうと、もうキャンセルはできませんのでご注意を。貴方は確認を済ませ実際に飲んだのだから、会計時に「注文したものと値段が違うじゃないか!」とゴネても詮の無いことです。


■ホストテストで感想を述べるな
ソムリエが「ご確認をお願いします」と、ホストのグラスにワインを少量注ぐ場合があります。その際は軽く香りを取り、ほんの少しだけ口に含み、ウムと頷きソムリエに目で合図するだけで充分です。かける時間は5~10秒。たまにグルグルと洗濯機のようにグラスを回し恍惚の表情を浮かべ、味わいについてベラベラと語る方がいますが、あれはただのバカなので真似しないように。

このテストの由来は『毒見』であり、ワインに毒を盛っていないことを証明するために、ホストが最初に飲んでみせるパフォーマンスです。したがって、「ここはワインに詳しい○○さんがやってよ~」のように責任逃れするのも愚か者の極み。ワインに疎かろうが何だろうが、ホストが最初に毒見するのがスジというものです。

現代ではワインが劣化していないかを確認することが主な目的。したがって、劣化の有無さえ判定できれば、香りや味わいがどうのこうのとコメントする必要は全くありません。何なら香りだけ嗅いでOKと判断しても良いくらいです。

「劣化とかわかんねーよ」という方もご安心を。ホストがテストするまでもなく、その道のプロであるソムリエが事前に品質を確認しているため、客の手元に劣化したワインが届くことはまずありません。

ちなみに「うーん、イメージと違うなあ、違うの持ってきて」と、ちょづいたとしても、そのワインに劣化が見られない限りそれはただの追加注文であり、両方の金額を請求されてしまうのでご注意を。

若いワインやスクリューキャップのワイン、安価なワインの場合に「ご確認はいかがなさいますか?」とソムリエから問われる場合があります。これは「このワインは劣化するはずはなくホストテストなど無意味。仮に劣化していたとしても、安物ですぐに換えてやるから安心しろ」という意味なので、わざわざテストする必要はありません。その場合は「結構です。そのまま注いで下さい」と一声添えるだけでOK。無理にテイスティングしようとすると、性格の悪いソムリエであれば「あの客あんな安物のワインをテストしてどうすんだよダサ」と裏方で陰口を言うかもしれません。


■ワインの温度はリクエストしてOK
ワインにはそれぞれ最も美味しく飲める温度というものが存在し、ソムリエはその温度を狙ってサービスしてくれます。しかしながら味覚や好みというのは人に拠って異なるので、もう少し温度を下げた(もしくは上げた)ほうが私は好きだと感じた場合は、堂々とリクエストしてOKです。


■残念ながら水は有料だ
ワインを注文した後に「お水はスパークリングとスティル、いかがなさいましょうか?」と聞かれることでしょう。スパークリングとは炭酸水のことで、スティルとは炭酸の無い普通のミネラルウォーターのことです。

タツヤ・カワゴエの川越達也シェフが「水だけで800円も取られた」と食べログに書き込まれたことに対し、「そういうお店に行ったことがないから『800円取られた』という感覚になるんですよ」と発言し、年収3~400万円の人が慣れない高級店に行き批判を書くのはおかしいと訴え炎上しました。

しかし残念ながら、グルメな人々の中では彼が言うことを正論と捉える方が多いです。自宅で水道水をガブガブ飲んでいる人にとっては水ごときで1,000円近く徴収されるのは憤懣やるかたないでしょうが、高級レストランとはそういう場所なんだと諦めて下さい。

ちなみに「タップ(水道水)も~」と選択肢を提示された場合、それに乗っかるのは少しも恥ずかしいことではありません。水代で浮いた予算は是非ワインに回しましょう。


【食事の序盤から中盤】
■ケータイをチェックするな
これも女性に多い減点ポイントです。「テーブルの上にケータイを置くな」に通じるのですが、ケータイがピコピコ光るたびに内容をチェックし返信するなどは言語道断です。目の前の料理や男性よりも、ここに居ない誰かとの繋がりが重要なのであれば、最初からこのような店に来ないほうが皆ハッピーです。ホストは物凄いコストをかけて食事に臨んでいるのだから、ゲストもケータイの電源を切ってから食事に臨むぐらいの心意気が欲しいところ。映画館で2~3時間ならガマンできるんだからフランス料理屋でも頑張って下さい。

どうしても連絡を取らなければ状況であれば「カクカクシカジカで途中途中ケータイを確認することになるがご容赦頂きたい」と事前にホストに断っておきましょう。


■料理の香りを取れ
いきなり料理を口に放り込むのではなく、まずは香りをお楽しみ下さい。味覚とは舌先のみではなく五感の集大成です。風邪で鼻が詰まっていると、食事が美味しく感じられないのはそのためです。キノコ類(特にトリュフ)は味そのものよりも香りを楽しむ食材であることをお忘れなく。


■写真は一瞬で撮れ
そもそも食事中にカメラを取り出し料理の写真を撮るのは好ましい行為ではありません。が、そうも言っていられないSNS時代でもあるので、お店が認めている場合に限り写真撮影はOKとしましょう。「ダイニングでは雰囲気を壊すのでNGだが個室ならOK」「カメラは店員に預けてくれ厨房で撮っておくから」のような一工夫あるレストランもあったりします。

ただし、お店に注意されないからと言って巨大なカメラでバッシャバッシャ撮るのはやり過ぎです。フラッシュ撮影は論外。携帯のピロリーンも避けたいところ。できればサイズが小さく音の出ないコンデジを使用しましょう。

テーブルの全員がそれぞれカメラを構えるのではなく、代表者が撮ってシェアするぐらいの心遣いがクールです。何度も何度も撮り直すのは見苦しいし料理も冷めてしまうので、撮るなら撮るで一瞬で一発でキメましょう。


■カトラリーは外側から使え
カトラリーとはフォークやナイフのこと。テーブルコーディネートに拠っては使用するカトラリーを最初からズラりと並べてあることがありますが、外側から順番に使っていくだけでOKです。間違って使ってしまったり、順序がわからなくなってしまっても焦らない。お店側が黙って不要なものは下げ、必要なものは追加で並べてくれます。


■皿や顔は動かさずカトラリーを動かせ
日本の茶碗文化がそうさせるのかもしれませんが、皿を持ち上げて口元まで近づけたりするのはNGです。フランス料理において皿を動かすことは基本的に無いと考えて良いでしょう。

だからといって顔面を皿に近づけるのも下品であり、それを人は犬食いと呼ぶ。ポタポタとこぼさないようにするための努力だとは理解できますが、あまりにも見苦しい。こぼしたくないのであれば、皿の上である程度、汁気を拭うなりポロポロを落とすなりしてから口に運べば良いだけのことです。

そのプロセスを省略して食べることを急ぐということは、食べ物を目前にして己の食欲を制御できなくなっている証拠であり、理性が薄弱で文化的スラムに陥っていると判断されてしまいます。


■手皿を用いるな
これは何故か女性に多いのですが、手皿を添えるのもNGです。大体、手皿で落下物をキャッチできたからといって何になるのか。ポタポタとこぼさないようにするための工夫は「皿や顔は動かさずカトラリーを動かせ」で既に述べたとおりです。


■音を立てるな
これは幼稚園や小学校でも学ぶことなのですが、意外にもできていない人が多い。静かにカトラリーを持ち、静かに料理を食べ易いサイズに切り、音を立てて啜ることなく静かに口の中へ運ぶ。口をしっかりと閉じて料理を噛む。クチャ食いは論外です。


■麺はフォークだけで食べろ
どちらかというとフランス料理よりはイタリア料理における論点ですが、スパゲティなどの麺類はフォークのみで食べ切るのが正統的です。もちろん日本のレストランではスプーンも同時に供されるのが普通なので、それを用いても何ら問題はありませんが、クールではありません。

また、蕎麦のようにズズっと啜るのは問題外。先の「音を立てるな」にも通じます。途中で麺を噛み切って食べさしを皿に戻すのもエレガントではありません。上手に食べるコツは、極少量の麺をこれでもかというほどフォークに巻きつけ、一口で頬張り切れる大きさにまとめ上げることです。そうすればフォークからダラとぶら下がることも無くなり、結果として啜ることも噛み切ることも無く、一口で適量を頬張ることができるようになります。


■食べるスピードを周りに合わせろ
これは大半の男性が苦手とするところ。高級フランス料理とは単にカロリーや栄養を摂取するだけが目的ではなく、建築や調度品、雰囲気などを含めた世界観の全てを味わう舞台です。自己の欲望に任せ自分のペースだけを考えて食事を進めるのは野暮というもの。そのため、共演者である連れの食事スピードを常に意識しながら食べることが肝要です。


■場合に拠っては堂々と手を使え
アミューズや骨付き肉など、手を使って食べるのが前提の料理の場合は、給仕が「お手にとって~」と事前にアドバイスしてくれます。それ以外の食材、例えばエビやカニ、貝、魚の骨など、カトラリーだけでは上手く食べる自信がない場合も堂々と手を使いましょう。もちろんカトラリーだけで美しく食べ切るに越したことはありませんが、それが難しくカトラリーだけではグチャングチャンに食べ散らかすぐらいなら、手づかみで上手に食べ切ったほうがまだマシです。


■卓上に置かれたボウルは手を洗うためのものだ
製菓用のボウルを小さくしたようなボウルに水を張って提供されることがあります。これは手づかみで食事した際に手を洗うための水です。「知らずに飲んでしまった」など都市伝説のような笑い話がありますが、もちろんスープや飲み水ではありません。


■グラスは右手、パンは左手
大人数の円卓で混乱する方が多いですが、貴方のグラスは右手にあるものであり、貴方のパン皿は左手にあるものです。自信が無ければ自分から着手するのは諦め、両隣のゲストが使用したのを確認してから残りのグラスとパンを手に取りましょう。

お隣さんが誤ったグラス(または皿)を取ってしまった場合でも「あなた間違ってますよ」などと指摘して恥をかかせてはなりません。給仕に「私のパンはどちらかしら?」と静かに訊ねれば、すぐに事情を察して上手いことやってくれます。


■グラスに口をつける前にナプキンの内側で口元を拭え
食中ワインを飲む際、何も考えずにグラスに口をつけると料理の油脂がグラスに付着し汚れてしまいます。したがって、グラスに口をつける前にはナプキンの内側で軽く口元を拭い、油脂をできるだけ排除してからワインを飲むようにしましょう。同じ理由から、女性がベッタベタに口紅をつけて食事に臨むのも避けたほうが良いでしょう。


■グラスはエレガントに持て
ワイングラスの持ち方は『ステム(脚)を持つ派』と『ボウル(胴体)を持つ派』に分かれますが、私は前者を推します。なぜなら『ボウルの部分を直接手で握ると、体温で中身のワインが温まってしまい、味わいに影響が出る』という明確な根拠があり、また、何よりエレガントで見栄えするからです。

ネット上には『ボウル(胴体)を持つ派』も少なからずいて、その理由は『公式な晩餐会マナーではそうなんだ!』と言うばかりで根拠は不明確。何よりボウルをガツンと手に取るのは無粋であり、はっきり言ってダサいです。これまで私は数百人とフランス料理をご一緒しましたが、『ボウル(胴体)を持つ派』は現実にはたったひとりであり、アメリカでの生活が長い日本人女性でした。

余談ですが、グラスの持ち方ひとつでその人の経験値が即座に判断できます。テニスが上手い人はプレーせずともラケットを持ってコートを歩いているだけでサマになるのと同じ原理です。経験値は無くともせめてグラスの取り扱いぐらいは上手くなりたい方は、自宅のコップを全てワイングラスに置き換え、何でもない水やジュースを飲む際であってもワイングラスを用いるようにしましょう。それだけでグラスの取り扱いはかなり上達するはずです。


■ワインはいきなり飲むな
「料理の香りを取れ」で述べたとおり、味覚とは舌先のみではなく五感の集大成です。加えてワインの価値の半分は香りです。いきなり飲み下すのではなく、まずは香りをお楽しみ下さい。


■グラスをグルグル回すな
ブラインドテイスティングなど、ワインの特徴を瞬発的に把握しなければならない場合に、グラスをグルグル回してワインを強制的に空気に触れさせる場合がありますが、普通の食事においてはまず必要の無い行為です。

スパークリングワインは下から泡が立ち上ってくるのでそもそも不要。白ワインは一般的に空気に触れてどうのこうのというモノではないから不要(万一そのようなワインである場合はソムリエが最初からデキャンタージュを提案してくれる)。偉大な赤ワインに限ってその可能性は無くは無い。しかしながらそのようなワインは食中における状態の変化を楽しむべきであり、無理矢理空気に触れさせグチャングチャンに混ぜて抉じ開ける必要はあるのかなあ、というのが私の意見です。


■ワインは自分たちで注ぐな
原則的にワインはソムリエが管理しているのでこのような状況はまず起こりえないのですが、ごくたまに日本のビール文化に慣れ親しんだ年配の方が「いやあ、どうぞ1杯」などとやっていますが当然NGです。

追加で注いでもらいたい場合は、空のワイングラスを手に持ち給仕に目配せするだけでOK。間違っても「すみませーん」などと大声で呼びつけないように。


■パンでソースを拭うのは賛否両論
パンは料理と料理の間に口にして口腔内をリセットするのが本来の役割だそうですが、ソースや肉汁に惚れ込んだ場合はパンで拭い取りながら、余すところ無く楽しみ切るのもアリでしょう。

「エレガントでない」と眉をひそめる方もいらっしゃるかもしれませんが、料理人の立場からすると、きれいサッパリ食べ切ってもらったほうが心躍るというものではないかなあ、と私は考えています。

したがって、接待など外形が重要視される会食の場ではパンでソースを拭ったりせず、気の知れた家族や恋人・友人との食事の際は、のように使い分ければ良いと思います。


食べ終えたカトラリーは揃えて午後4時に置け
料理を食べ終えた際、使用したカトラリーは揃えてお皿の午後3~4時の位置に置きましょう。これは「食べ終えました」のサインであり、給仕は黙ってお皿を下げてくれます。ハの字型にフォークとナイフを置くと「まだ食べてますよ」のサインであり、その場合、給仕が皿を下げることはありません。いずれの場合もナイフの刃は自分に向けておくようにしましょう。

このように、テーブルマナーとは、テーブルにおける会話を中断せず、お店側と言葉を交わさずともこちらの意思を伝えることができるという、非常に便利なツールでもあるのです。


■落としたカトラリーは自分で拾うな
万一カトラリーを床に落としてしまった場合でも、自分で拾ってはなりません。給仕に目で合図すれば、黙って新しいカトラリーに交換してくれます。ナプキンを落とした場合も同様です。

これも昔の名残であり、『カトラリーを拾うフリをして足元に隠し持っていた武器を取り出し襲い掛かる』可能性を排除するためです。

(文字数制限のためvol.2に続く↓)
https://tabelog.com/rvwr/takemachelin/diarydtl/154325/
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