『キリンがクラフトビールに拘る理由』い~ちんさんの日記

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キリンビールが、新たな挑戦のアクセルをぐっと踏み込んだ。

 同社は10月12日、日本のビールメーカーとして初めて、海外のクラフトビールメーカーとの資本業務提携を発表した。組んだ相手は、米国・ニューヨークを拠点とするブルックリン・ブルワリーだ。

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 キリンビールは同社の株式の24.5%を数十億円で取得し持分法適用会社とするほか、2017年春からは合弁会社を通じて、「ブルックリン・ラガー」などブルックリン社の主力商品を日本国内で製造販売する。

■急成長中のニューヨーク発ビール

 ブルックリン社は、1988年にニューヨークで創業した。「4パイント(約2リットル)飲んで、ちょうど良かったと思える飲みやすさ」、「グラスのビールが残り3分の1になったときに、また注文したくなるおいしさ」にこだわったクラフトビール作りに取り組む。販売数量は2004年から11年間で年平均18%の成長を遂げ、クラフトビールの輸出量では世界トップクラスに上り詰めた。

 成長を続ける中で、ブルックリン社は資金調達の必要性を感じていた。背景には2つの計画があった。1つは新工場の建設だ。同社は生産の8割を外部委託しているが、内製化を進めることで輸出拡大を目指す。そしてもう1つは、近隣に移転新設する本社ビルの屋上にマンハッタンを一望できる600席規模のバーを開き、ビル自体を観光地化することだ。

 資本を求め、従来からさまざまなビールメーカーと交渉してきたブルックリン社だが、今回キリンがパートナーとして選ばれたのはなぜか。

きっかけはキリン社員の熱意

 きっかけは8年前にさかのぼる。キリンビール企画部の堀見和哉氏は、2008年からの2年間の米国留学中にニューヨークの飲食店で「ブルックリン・ラガー」と出会い、その味やコンセプトに感銘を受けた。

 その後堀見氏は、2015年4月に北米のキリンブランドのマーケティングを担うこととなる。ニューヨークに出張する機会が増え、ブルックリン・ラガーと再会する。「誰でもいいから会わせてくれ」。一度製造現場を見てみたいと思った堀見氏がブルックリン社宛てにメールを送ると、社長から直々に「会いましょう」と返信が届いた。

 2016年1月、ブルックリン社に出向いた堀見氏は、それぞれCEO(最高経営責任者)、社長を務めるオッタウェイ兄弟とビールを飲み交わし意気投合。2週間後には、日本での事業展開の可能性について提案する機会を得た。以降、2週間に1度のペースで協議を重ねた。「新しい取り組みだが、キリンの取締役も前向きだった」(堀見氏)。ラブコールを送り続けたキリンは、出会ってから9カ月で提携契約にこぎ着けた。

■ビール離れを食い止められるか

 キリンの素早い動きの裏には焦りがあった。国内ビール市場が縮小の一途をたどり、追い打ちをかけるように若者のビール離れが叫ばれる。起死回生の一手として選んだのがクラフトビールだった。

 同社は2014年7月にクラフトビール戦略を発表。「一番搾りを買ってください」と押しつけるのではなく、「こんな場面には、こういうビールがある」と消費者に提案していくかたちを目指した。若者を再びビールの世界に呼び戻すべく、動き始めた。

 戦略発表の2カ月後、「よなよなエール」などを手掛ける国内クラフトビール最大手のヤッホーブルーイングと資本業務提携を結んだ。2015年春には小規模なビール醸造所と飲食店を併設した「スプリングバレーブルワリー」を東京と横浜にオープン。東京・代官山店では、いまだに休日は直前の予約が難しいほどのにぎわいだ。

 コンビニ限定で展開してきた小瓶タイプの自社製品「グランドキリン」は、クラフトビールの入門編に位置づける。2016年9月からは販路をスーパーやネットにも拡大した。

◆競合他社は疑問視

 一方で「大手がやることではない」とクラフトビールに否定的なのが、アサヒビールやサッポロビールなどのライバルメーカーだ。従来のビールの高価格帯を強化することで、新たな需要の喚起に腐心している。

 2016年に入ってから、アサヒは主力の「スーパードライ」の高価格派生品である「ドライプレミアム」をリニューアル。サッポロも看板商品「ヱビス」の味とデザインを刷新した。サントリーは10月25日からセブン&アイグループの店舗限定で、高価格帯の主力「ザ・プレミアム・モルツ」の派生品を発売する。

■キリンは高価格帯が手薄

 キリンも47都道府県ごとに異なる「一番搾り」を発売するなど、従来の主力ビールのテコ入れに取り組んでいるが、高価格帯では確固たるブランドを持っていなかった。今後、高価格帯の展開はクラフトビールに懸けるというわけだ。

 現時点で、日本のクラフトビール市場はビール類全体の1%に満たない(販売数量ベース)。キリンの目標は2021年までに市場規模を3%に拡大し、その中で同社が50%のシェアを握ることだ。一方でブルックリン社のある米国は、クラフトビールが市場全体の12%超を占める。

 クラフトビール市場の拡大を牽引し、ビール離れを食い止めたい――。そんなキリンの戦略は功を奏するのか。ブルックリン社との提携で加速させ、米国の背中を追いかける。
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