2回
2023/07 訪問
ドハマリ
夏の休暇の、イタリアン開拓3日目。
私がよく引用するネタ本〈東京最高のレストラン〉でも評価が高いお店。特にマッキー牧元氏の評価が高いものは私の好みに合うことが多いので、氏が絶賛していることもあり、4連戦のうちに入れることにした。
予約を入れたはいいが、品数しかわからない。楽しみな反面、何を期待したものかという気持ちも抱えつつ、自由が丘へ。駅からとにかく歩く。夕方になって暑さは少し引けたが、それでもまだ暑い。
両脇が住宅になっている間の細道を抜けていくのだが、入り口は確かに分かりにくい。よく見てみれば「1F mondo」という表記のある場所があるのだが、この隠れ家感はすでに面白い(わかってしまえば)。
さて。
私にしては珍しく先に結論を申し上げるが、この店は「私が探していた通いたい店」だ。
まず料理が美味しい。完成度も高ければ緩急もあり、素材と真正面から向き合って真摯に作られた料理であるがゆえに食材の組み合わせに必然しかなく、揺るぎない説得力がある。どこと囚われることのないイタリア郷土料理の気の置けなさもいいし、来る人が「イタリアンに求めるもの」にもきちっと応えようとする意志もある。パスタをちゃんと食べたいとか、一皿、一皿はそこまで量を少なくされてしまうと何かね、とか。ちゃんと記憶に残る分量出て来る。
そしてこの店が唯一無二なのは、サービスのフロントに立つソムリエ。シェフの作り出す料理とワインを知り尽くし、ワインの熟成、抜栓からの時間も考慮した「ある時点での正解」を選び、サーブする。ペアリングコースは設定していないが、料理の成り行きに合わせてバイザグラスで選んでくれる。この日に演出してもらった料理とワインのマリアージュは総て完璧だった。
ただでさえスゴイ料理がさらに一皮も二皮も向ける。言葉が無い。冒頭に頂いたシャンパーニュを除けばレアなワインはあっても、バローロやブルネッロのようなイタリアワインの看板ワインは出さず、それで期待を大きく超えて来るのだから降参するしかない。
人によって、ソムリエとの相性は出るかも。ウィットにも富む中々愉快な性格の、プロフェッショナルでユニークなサービスマンだと思うが、個性はそこそこ強いので人によっては受け付けないという人も居るかもしれない。でも、この人無くしてはこの店は成り立たないんじゃないか。
ちなみに金額は、料理・ワイン6種・ミネラルウォーター等々で27,000円行かないくらい。出されたものを思えば安い部類。
スコアが4.7と控えめなのは、これを5.0と言い切るだけの食の体験が私に無いだけ。イタリアンなのに北欧モダンテイストの内装や、静かに流されるアメリカンロックなどまで含めて、私には好みのド真ん中を撃ち抜かれる店だったので、これは年内に再訪しなきゃなとすでに思っている。
以下、余りにも感動しすぎて筆が走りがちなのだが、この日、供されたメニュー群と不要に長い感想。
①お野菜のスープとオリーブのフリット
調理過程で出るいわゆる「野菜くず」から取ったコンソメと、オリーブの中にサルシッチャを詰めて揚げたフリット。名刺代わりに出されるものとしてはレベル高すぎで、ここで軽く心を掴まれる。
②もくじ
メニューにそのものずばり「もくじ」と書かれていて、これで一皿を構成しているとは運ばれてきて初めて知った。この後の5品でメインの食材となる主役たちを、より素材の味がわかるように仕立てた前菜盛り合わせ。アスパラ素揚げ、金目鯛のカルパッチョ、イワシの皮を炙ったもの、鮎の頭、牛肉を湯にくぐらせたもの。
③太刀魚とジェットファームのグリーンアスパガラス
グリーンアスパラガスを太刀魚を巻き付けてローストしたものに、数種類のハーブを和え、卵黄のソース(オランデーズソースだと思われる)を布いた一品。
ソムリエが選んでくれたのはフリウリ州のソーヴィニヨンブラン。「教科書に出て来るようなソーヴィニヨンブランです」と仰る通りの爽やかな草感。ハーブが盛られたアスパラと合うんだ、これが。
④金目鯛のヴァポーレと極みエノキのズッパ
高知県の海水を使って育てたとかいうエノキに、京都のベーコンで取ったスープに蒸して仕上げた金目鯛を乗せる。スープの味わいの深さ、複雑さと、繊細かつふっくら仕上げられた金目鯛が絡むと異次元の複雑さ。
迎え撃つのはヴェネト州・土着品種ガルガネーガを使用したSASSAIA 2009なるワイン。今や自然派ワインのようだが、この当時は最低限の酸化防止剤だけ入れて作っていたそうな。これがまた、料理の分厚い旨味、繊細さとよくテンションが合うのです……。
⑤冷たい“フェデリーニ” 鰯とイナゾートマト
透明なトマトジュースを使ったソースにフェデリーニを浸し、上にしっかり焼いた鰯を乗せる。鰯をほぐしながらパスタをソースに絡めていただく。
この露骨に海鮮な品に、トスカーナはキャンティ(しかもクラシコですらない)を合わせてくる。クラシコですらないキャンティなんて、勧められなかったら飲もうなんて思わないし、ましてや鰯のパスタに合わせようなんて考えもしないのだが、これがビックリするくらい料理に合う。ソムリエが言う「フツーのワインでしょ?」っていう通りのワインが、料理を伴って味わいが膨らむ。
⑥実山椒を練り込んだ“カヴァテッリ” 鮎と干しきゅうり
南イタリアのパスタ、カヴァテッリに山椒を練り込み、鮎ときゅうりを具材に使って爽やか・軽やかに仕上げた品。
迎え撃つのはTAJO'。ネッビオーロとフレイザ(初耳…)のブレンド。ソムリエ曰く「ほどよい主張のワイン」。これがパスタに練り込まれた山椒の爽やかなトーンを甦らせ、料理の持つ本質をむき出しにする。
⑦サカエヤ新保さん手当の黒毛和牛サーロインの炭火焼とインサラータミスタ
真ん中にローストした牛肉、周りを焼いた野菜たちが取り囲む、見た目にも楽しい一品。
Massa Vecchia 2000。マグナムボトルの瓶底。これがまた、牛肉とガッチリ合って美味しい。ちょっとグーグル先生に頼ってみたら、生産本数が多くないみたい。
⑧イチジクとザパイオーネ(デザート)
リキュールどうっすかと言われて断ってみたら、ジャマイカのラムがあるんでこれは是非飲んでってくださいと注いでもらってしまう。正解でしたよ、ソムリエ。今度からあなたから勧められたら、ハーフでもらうことにします。
そのほか、パン6種。パンもいちいち美味しかった。完敗。
2023/07/20 更新
2023年よさらば。
この年とのお別れの仕方を考えた時、「行っておかねば」と思った店の最右翼の1つがこちら。
夏のイタリアン開拓で出逢ってしまった、ここまで変た…ごほん、失礼、見事にワインを食事に合わせてくれる店があるのかと感動したお店。
ここは絶対、年内再訪するぞ、ってんで、結構前に予約を入れておいた。
メニューは以下のとおり。
①お野菜のスープとオリーブ
②もくじ(鯛のカルパッチョ、白子のムニエル、ポルチーニのフリット、フグのテリーヌ、猪肉…は甘辛く煮付けた感じ)
③真鯛と桜えびのフリット 根セロリと里芋のソース
④白子と香茸のブッディーノ(洋風茶碗蒸し)
⑤”タリアテッレ” イタリア産ポルチーニ茸とフルーツトマト
⑥”リゾット” トラフグとカステルマーニョ、白菜
⑦猪ロースの炭火焼、ビーツ、ヨーグルト
⑧柿のドルチェ
2回目ということもあって、ソムリエも私の対策をしてくれたようで、コンソメ、その後の食材をざっと味わわせてくれる「もくじ」でスプマンテ、そして第一の前菜・③桜えびと真鯛のフリットにロゼを合わせた後、「今日は白ワイン、出しません」と刺激的な宣言。ラストの猪肉以外は魚介と野菜・キノコが主役の品々に、見事に赤ワインを合わせ続ける離れ業を演じてくれた。
このお店、料理はもちろん見事なんだけど、やはりこのソムリエの凄まじい業があってこそだよな、と。
中でもタニックで凝縮感のある北イタリアのワイン、RAINERI, DOGLIANI 2021を、全く肉も何もないポルチーニのタリアテッレとバチンと合わせた時には恐れ入った。
料理単位では、どれも秀逸なのは前提として、猪ロースの炭火焼がこの日の最高峰。コッテリ炭で香りを付けて、脂が美味い。選ばれたワインもドンピシャなのは言うに及ばず。
その日に仕入れた旬のものを土台にコテコテ作りこまない、素材を本当の意味で活かした美味しい料理と、ソムリエの演じるワイン・ペアの離れ業。6杯+デザートワインを飲んで、お勘定は30,000円弱。相場って感じではあるけれど、満足感だけで言ったらお値段以上。
私のストライクゾーンど真ん中。偏愛するってこういうこと。ここは偏愛レストランとして、来年以降も、行けるかぎり通いたい。