6回
2023/06 訪問
初夏のはる駒
本当はもっと足繁く行きたいのだが、なんだかんだあって、半年近くご無沙汰してしまった。
この日のツマミは、いつものイカではなく、こはだ。前回訪れた時に、ガリとワサビを挟んで木の芽状に切ったこはだを見ていたので、「次にこはだがある時は、絶対頼もう」と思っていた。種札にこはだがあるのを見て注文すると、親方がにやっと笑って、さすがだね、と一言。
ついで、しゃこも食べていきなよ、という勧めに乗っかると、鮨ではなくつまみで出してもらう。身の小さいしゃこだけど、昔ながらの江戸前のしゃことよく似たいい代物らしく、鮨ではなくツマミでいただく。これがまた美味しい。
そこから握り。かれい、かすご、あじ、こはだ、赤身、いか、赤貝、えび、穴子、たこ(ツメ)、あじ、うに、鉄火巻と沢庵巻で〆。+冷酒1合、20,000円足らず。お見事。
種札が提げてあるものは、総てネタも選び抜かれ、仕事も超一流。親方は「こはだは難しいんだ」と仰るけれど、このこはだが悶絶するほど美味しかった。「こはだを食べれば大体わかる」なんて言う人もいるけれど、それは一面正しく、一面正しくないことを、田島親方から学んだ。〆る加減を少し間違えるとどうにもならなくなる繊細なネタで、技量の差が残酷なまでに出て来るネタなのは事実。その意味で正しい。
しかし、ここで出て来るネタはどれも痺れる。特に、鯵、かすご、煮蛤。この日は出していなかったが鯛、鯖も。特に鯛は、「鮨は香りを楽しむもの」ということを知らしめてくれる。煮蛤のツメの鋭さ、旨さも、一度食べてから虜になった。
ほかのお店にも行かないわけではないけれど、〈はる駒〉さんの〆た光物に敵う店とほとんど出逢わない。たまに出逢うと、1.5倍くらい高かったりする。
この日も、夏を前にして身が大きくなって立派なウニも、相変わらずの鉄火も、何もかもが美味かった。
次、どうしようかな、近いうちにまた来たいな、なんて親方に相談すると、7, 8月はネタに苦しむので、9月がいいよ、と勧めてもらった。また近くになったら予約を入れるつもりだが、今から秋に訪れるのが楽しみだ。
2023/06/25 更新
2022/12 訪問
暮れのはる駒
今年もあと少し、となって、年内行っておきたい店、と思ったときに、まず思い至ったのが〈はる駒〉さん。
幾つか勉強、と思って鮨屋を訪ねてみたが、なんか最後、〈はる駒〉さんに戻って来るようになってしまった。
一つには価格。雲丹、大トロだけは高いが、それ以外を適当につまんでいる分には、20,000円を超えないで済む。もう一つは好きなものを好きな順で食べられて、しかも魚が美味しい。貝が嫌いというわけではないのだが、私は魚をネタにした鮨が好きなので、貝ばっかり出されたりすると煮え切らない気持ちになるのだが、ここでその心配は無い。しかも旬の魚ばかりで、長年の研鑽で磨いた仕事を施したものばかり。
そして、余計なものを削ぎ落した、ぴりっとした雰囲気も心地よい。親方と女将の息の合った隙の無いサービスも、この店の心地よさの一部。
この日は蛸の刺し身をツマミにお酒を飲んで、かすご、さよりに始まり、たい、ひらめ、ぶり、さば、中トロ、赤貝、はしら。ぶりとさばをおかわりして、うにへ行き、鉄火巻きと沢庵巻きで〆。刺し身、13貫、巻物2つ、熱燗1合で税込23,000円弱。相変わらずの見事なお仕事。
いつものことながら、光物とたいが美味しい。そして、旬のぶり。去年はぶりに出逢うことができなかったのだが、これがとにかく美味しかった。
年内は28日まで、新年は成人の日の翌日からだそう。正月、七草のころまでは漁師も休んでいて魚が入らないので、と。
年の暮れというにはまだ少しあるものの、何だかこの店の雰囲気は、師走のこの時期がよく合う気がする。
2022/12/11 更新
2022/07 訪問
研ぎ澄まされた鮨屋
土曜の夜。予約して一人。
昨年秋にお邪魔をしてからというもの、定期的に来続けている。春に訪れてから、ずいぶんと間が空いてしまった。
ここもと、鮨屋を回ろうという気になった時、ここは一度、挨拶に訪れないといけないと思っていた。
今回はお客さんが一斉にはけていった後に、いつもより少し親方と話す機会があったので、色々教えていただいたが、〈鮨は本来、ハレの食事ではない〉、という点には、改めて職人気質の親方だなあと感銘。今回は鯵と、カレイ(この日はマコガレイだったそう)、かすご、そして塩蒸しと生の二種のアワビが突出。そういやウニも夏が旬だ、食べておけばよかった、と店を出てから後悔。でも、ここの魚をネタにした鮨は、どれも美味しく、行くたびに新しい発見もあったりして、どこで食べてもある程度美味しいウニを敢えて〈はる駒〉さんで食べようかというと、中々そうならない。
この日はイカ刺し、冷酒で初めて、カレイ、アジ、スズキ、アワビ、海老、かすご、塩蒸し、マグロ赤身、シャコ、戻ってカレイとアジ、穴子、鉄火巻き、干瓢で2万円弱。ウニは頼まなかったがアワビを2種行って、12貫・巻物2種でこの値段だから、「合わない」と仰ったのは、そうだろうなと思う。
改めて行ってみて、いかに他の鮨屋が美味かろうが、昔ながらの江戸前の仕事を守りつつ、真摯に商いを続けるこの店は通い続けたいと思った。
2022/07/31 更新
2021/12 訪問
余分を徹底的に削ぎ落したところが堪らない
今年、意図的に新規開拓に重きを置いていたので、再訪はほとんどして来なかったが、2021年の〆にここだけは再訪しておかねばと思い、土曜の夜、予約して再訪。
土曜は(当然)予約が立て込むようで、翌週の土曜という取り方だと埋まってることもあるが、2週間後くらいだと時間も融通が利く。予約を取ってからはもう、楽しみで仕様がなかった。
前回は、間合いを探りながら、注文の組み立ても迷いながら様子を見ながらだったが、一回、経て慣れるとはるかに組み立てやすい。
能の舞台のように余計なものが削ぎ落されたお店の暖簾をくぐり、席に着いて冷酒一合、タネ札を見て、好みのタネを切ってもらう(「○○切ってください」って言うのがこの店での「符牒」のようだ)。この日はイカ。肉厚で柔らかくねっとりしたイカがとんでもなく美味しい。酒を飲み、刺し身をつまみながら、タネ札を眺めて組み立てる。
季節のもの、江戸前の仕事を施したはまぐり、こはだ、穴子etc、なんでも美味しい。ついつい、端から端まで行きたくなる衝動に駆られる。その中でも特に傑出しているのは、前回も感じたが鯖と鯛。レアな、生の食感を残しつつ酢で〆られた鯖、湯引きで皮目から魚の香りを引き立たせた鯛は、ちょっとヨソで食べた記憶が無い。鯛なんて、ああ、鯛って香りを楽しむ魚なのかとここで知った。ほんとは鯵もだけど、鯵は季節じゃないので無かった。
あとは、鉄火巻き。隣のお客さんが「モザイク」って言っていたけど、言い得て妙。赤身、中トロ、大トロを切って噛み合わせて巻いたもの。とにかく完成度が高い。この後は干瓢巻きか玉子くらいしか食べる気にならないので、最後の〆に持って来るお客さんも多いようだ。(少なくとも、これまで同席した、この店の常連のお方たちは、多くが最後に近いところに持って来ている)
とはいえ、好きなものを好きなように頼むのがこの店の流儀。その季節の本当に美味しいタネを揃え、酢で〆るなり煮るなり最高の仕事を施して出してくれるので、どんな人でも満足できるはず。
今回はイカに始まり、さより、こはだ、はまぐり、はしら、鯖、縞鯵、平目、鯛、戻って再び、鯖と鯛、あなご、鉄火巻き、干瓢巻き、吸い物、冷酒一合、〆て18,000円弱。今回もお見事でございました。
酒を飲みたい人は刺し身を多めに切ってもらう楽しみ方もあるのだろうけど、私個人の楽しみ方としては、ここでの酒とツマミは鮨に到るリードタイム(タネ札から構成を組み立てる時間)で、純粋に鮨を楽しみにするときに使う店として自分の中で確立しつつある。鮨を気が済むまで食べたら長居せずに帰る。江戸っ子のファストフードだったわけで、その元来の鮨の在り方に忠実だという考え方もできる。余分なものを全部削ぎ落した鮨屋という感じ。カッコいい。
「次は春に来ます、2月か、3月か」なんて言うと、「3月のほうがよろしいんじゃないでしょうか、白身は鯛が美味しく、小鯵や、早ければカレイも出てきます」って教えてくれる。こういう商い、客に関する誠実さが堪らないなぁ。
2021/12/19 更新
2021/10 訪問
シブい仕事に惚れました
食通が信頼を置いている某雑誌に掲載されているのを見てから、一度行きたいなぁ、なんて思いつつ、緊急事態宣言も明けたことだし、というので、2週間半前に予約。
暖簾をくぐると、神保町の界隈からは隔絶された別世界。余計なものを総て削ぎ落した店内。ぴしっと背筋の伸びる、なんだか能の舞台のような神経が隅々に行き届いた感のある空間。
達人の余裕が漂う親方が飄々と客との会話を回しながら、客の注文を捌いていく。女将さんが隙間を埋めて、二人を挟んで関係ないお客さん同士の会話が繋がる妙も、いとおかし。
お任せ無し。
好きなの頼んでくださいね、ってんで、壁にかけてある種札とにらめっこ。
探り探りで行くが、最初にヒラメを刺し身で出してもらい、イカを皮切りに握りで、アジ、サバ、ヒラメ、タイ、マグロ(赤身・中トロ)、赤貝、ウニ、穴子、アジ、タイ、鉄火巻。冷酒2合。これだけ飲み食いして20,570円。高級寿司屋としてはリーズナブルだろう。
総ておいしかったが、湯引きした皮目から香りが立つタイ、肉厚に斬って身を返して調えて出されるアジ、脂を残しつつうまい具合に〆られたサバ、そして鉄火巻が出色の出来。タイは特に、仕上がりもキレイ。アジは食べ収めだそうで、11月からはサヨリを出します、来年春まで仕入れません、と。
老境に差し掛かり、言葉のはしばしに極めた達人の余裕と覚悟の煌めきを感じていちいちカッコいい親方だけど、中でもこの一言はシビれた。
「若い人に言うんだよ。お仕着せじゃなくて、お好みでやって、全部食べてもらったほうがカッコよくない?って」
ワタシもそう思います。
ついつい、端から端まで行きそうになった。残りはまた今度行った時の楽しみにしておこう。
2021/11/01 更新
ここ3年ほど、暮れには必ず〈はる駒〉を訪れている。
ほぼ、季節ごとに訪れているけれど、暮れの〈はる駒〉は格別。余分なものを削ぎ落した簡素にして廉潔な店の設え、酒は冷酒・熱燗・常温でそれぞれ1種ずつを揃えるのみ、「鮨と向き合ってほしい」という主人・田島親方の暗黙のメッセージ。この潔さが、暮れの雰囲気にしっくりくる。
年越しを控えて、気に入った店を再訪しようと考えた時にも、〈はる駒〉は外せなかった。土曜、3週間前くらいに予約を入れて訪れる。
ここのところ、こはだがあったので、こはだを木の芽のように切って出す刺し身からスタートをしてきたけれど、今日はこはだなし。いつものイカでもなく、〈さば〉の刺し身でスタート。
年の瀬、師走の〈はる駒〉が格別なのは、暮れの空気に馴染んでいるということもあるが、冬ならではの鮨ネタの王様と言ってもいい〈ぶり〉があること。親方の握りは、〆方が物を言う〈あじ〉、〈こはだ〉、〈さば〉などの光物やツメを使う〈はまぐり〉、そして、ヨソでここを超える握りに出逢ったことのない〈たい〉にその骨頂があると思っているが、この時期にしか出ない〈ぶり〉も素晴らしい。
そして、私の好きな魚がこの日は沢山揃っていて、端から端まで行きそうになった。最後に毎度おなじみの〈鉄火巻〉で〆る。幸せ。お決まりの鮨もいいけど、こうやってお好みでいただける鮨屋というのは稀少だし、重宝する。だから季節ごとに行くはめになるのだが。
この日は刺し身と冷酒に始まり、〈ぶり〉2貫、〈鯛〉2貫、〈さより〉、〈さば〉、〈しまあじ〉、〈いか〉、〈穴子〉、〈赤貝〉、〈はしら〉、〈はまぐり〉、〈みる貝〉、〈ひらめ〉、〈鉄火巻〉(順不同)を頂いて、20,000円いかなかった。毎度のごとく、お見事。
また来年もよろしくお願いします、と言ってお暇した。生温かい気候のせいか、年末という気分が中々盛り上がらない月だけど、何だかようやく年の瀬も迫ってきている感覚になってくる。
来年もまた、季節ごとに訪れることになりそうだ。