3回
2021/12 訪問
今年も〆のレビューはこちらの蕎麦屋
前回から丁度一年ぶりの訪店。
こちらはご存知の通り完全予約制で、しかも店の場所を公表しておらず予約を入れた際に住所を教えてもらうシステム。
このご時世ですっかりご無沙汰していたMFさんから思いがけないお誘いがあり、ご一緒するメンバーも気心が知れた方々のため喜んで参加させて頂いた。
訪問日は前後するが、今年の最後に相応しい店としてレビューさせて頂く。
場所は台東区内の某所で、最寄りの地下鉄の駅で集合した4名で向かう。
私は一度伺っていながら、近くまで行ってやっと思い出せるほどひっそりと佇む店舗である。
少し早めに着いたが、恰幅の良いご主人がにこやかに迎え入れてくれた。
この日は我々で貸し切りのようで、カウンターの中央4席を占める。
前もって17,500円(税込み)のコースを頼んで頂いている。
コースには料理とペアリングの日本酒が含まれており、ご主人は料理に相応しい銘柄を選んで四合瓶からショットグラスに注いでくれるシステム。
なお毎度のことだが、料理についてはご主人からはきちんとした説明が有りながら記憶が曖昧で、料理名や素材・調理法など多分にいい加減な部分があることはご容赦願いたい。
まずはウェルカムドリンク的に新政で出している「亜麻猫 スパークリング」が注がれ、これで再会を慶び皆さんと乾杯。
しゅわしゅわの口当たりで上々のスタートとなる。
この後の酒は料理の紹介の合間に併記させて頂く。
「百合根の茶碗蒸し」:茶碗蒸しでの百合根と言えば、形のままコロコロと入っているのが一般的だが、今回は擂りつぶして玉子の地に混ぜて蒸し上げられている。
出汁の餡が掛けられており滑らかな舌触りが好ましく、トッピングの生雲丹とイクラの食感も楽しい。
*「よこやま 特等山田錦」:珍しい壱岐の酒で、味わいスッキリ。
「牡蠣と柿のポン酢ジュレ」:名産地として知られた「仙鳳趾」産の生牡蠣と名残の柿をそれぞれカットして、ポン酢ジュレが掛かっている。
柿は結構甘いがジュレが上手くまとめている。
*「而今 にごり酒 2020」:一年寝かされたにごり酒は芳醇な味わい。
「かぶらの蟹あんかけ」:蕩けるほどに柔らかく煮られた聖護院かぶらに、ズワイガニの解し身がたっぷり入った餡が掛けられている。
食感も味わいも優しく、身も心も温まる一品。
*「而今 にごり酒 2021」:敢えて今年の新酒も出すことで、新旧の呑み比べを演出。
昨年のコクのある味わいも良いが、新酒のフレッシュ感も捨てがたい。
「真子ガレイの刺身 青菜添え」:旬ものの真子ガレイの薄造りには、中央に縁側も盛られて酢橘醤油が垂らされている。
ボイルした青菜が添えられており、千葉の契約農家から送られて来るというスティックセニョール・ラディッシュ・ルッコラの洋野菜3種なのが面白い。
カレイも美味いが、野菜の歯触りと微かな苦みが不思議と刺身に合う。
*「九頭竜 大吟醸」:口当たりの良さの中にも筋の通った味わいが好ましい。
「北寄貝の炙り」:上身は軽く塩を振り、ヒモの部分はナンプラーを塗してから炙られている。
軽く火を通すことで旨味が凝縮し、噛みしめると味が深い。
*「シン・ツチダ」:完全無添加醸造を謳う、清廉な味わい。
「白子のすり流し」:鱈の白子を裏ごしして出汁と合わせてクリーミーに仕立てた、和風ポタージュの趣。
白子の濃厚な旨味をストレートに味わえ、柚子と黒胡椒がアクセントとなっている。
皿まで舐め尽くしたいほどの美味さ。
*「七本槍 搾りたて生原酒」:どっしりした旨味が、白子の濃密な味を受け止めるに好適。
「海老の天ぷら」:先に車海老の頭、次いで牡丹海老、最後に車海老の身の順に出された。
頭はサクッとした揚げ上がりで香ばしく、牡丹海老は甘みが増すが身は柔らかい。
車海老はプリッとした食感が秀逸で、やはり出来栄えではこちらに軍配。
「蕎麦がき ブルーチーズのソース」:練り上げたそばがきに、ブルーチーズを溶かし込んだクリームソースが掛かっている。
ブルーチーズの香りや癖がほど良く加わった絶品のソースが、蕎麦がきに良く合っている。
ソースにはライス型の粒状のパスタが入っているのも面白く、ご主人のアイデアが功を奏した見事な逸品。
*「手取川 白壽 純米 にごり酒」:ワインを思わせる軽やかな酸味が良く合っていた。
「かまトロとイクラの特製ちらし鮨」:赤酢を打った酢飯の上に、炙ったりヅケにしたかまトロとイクラがたっぷりと盛られた、こちらのスペシャリテ。
こってりした脂分だが、香り高い赤酢が効いていていくらでも食べられそうな美味さ。
*「裏 佐久の花」:微発泡の爽やかな口当たりが、鮨に良く合う。
蕎麦は昨年収穫した蕎麦を使った、ご主人渾身の「熟成蕎麦のもり」。
十割だが粗目の挽きと微粉を調合し、やや太めに打ち上げられている。
粘りのある独特の舌触りで、噛めば香りと濃厚な旨味が溢れ出てくる。
濃い目のつゆの出来も秀逸。
返しの深いコクと出汁が融合し、ただ濃いだけでなく円やかさも湛えている。
蕎麦を先に口に入れて噛みしめ、その後でつゆを少量含む手法で食べ進める。
蕎麦にも酒を合わせたくなり、選んでもらったのは「町田酒造 特別純米55」。
まさにピッタリの取り合わせで楽しめた。
水差し状の器で出された蕎麦湯は、衒いの無い自然体のためつゆがすっきりと伸びる。
改めて〆としては、このタイプが相応しいことを実感。
実に清々しい気分で、バラエティに富んだコースの余韻に浸る。
期待通りの実に満足度の高いひと時を過ごせた。
ワンオペながら、タイミングよく供される料理の数々はいずれも見事。
丁度一年前の同じ時期に訪れたため同じような料理が出てくるかと思ったが、重なるところはほとんど無く、改めてご主人の腕前とセンスに感心する。
合わせる酒の選び方も素晴らしい。
いずれも料理の味を引き立てる組み合わせで、大いに楽しめた。
4合瓶で仕入れるのは割高だが、回転を考えるとむしろ合理的。
料理の内容や品数からすれば、酒が加わってのこの値段は極めてリーズナブル。
ご主人は時間のある時は方々の蕎麦屋を巡っているようで、その話題で語り合うのも中々面白い。
創意あふれる品々を楽しみに、次回は是非季節を変えて訪れたいと思う。
久しぶりにお目に掛かった皆さんとの会話も弾み、実に和やかな宴となった。
改めてこの場を設定して頂いたMFさんに感謝申し上げたい。
これにて本年のレビュー投稿は最後といたします。
一年間拙い物言いにお付き合い下さった皆さま、いいねやコメントを頂戴した皆さま、まことにありがとうございました。
コロナ禍の不安が払拭されたとは言い難い状況で、完全収束はまだ先かと思われますが、食べ歩きの行動範囲は少しずつ広げたいと思います。
蕎麦屋をメインと公言しながら、それ以外のレビューが増えてしまった状況を修正し、基本に立ち返り食べログ活動を進める所存でおります。
来年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
どなた様も良いお年をお迎えください。
2021/12/31 更新
2020/12 訪問
新生「山介」の仕事を満喫
今年最後に取り上げるのは、新たな場所で復活した「山介」である。
本所吾妻橋の店を閉じて少し間が空いていたので消息を案じていたが、今年6月に新店舗にて営業を再開。
以前からSNSで繋がっていた方も多かったようだが、私はそちらには疎いので情報が入り難かったが、親しいフォロアーさんのご配慮によりご主人と連絡を取ることが出来た。
店はご主人が一人で賄える規模で、小人数の予約客のみを受け入れるスタンス。
料理はおまかせで、呑み客を見据えてそれぞれの料理に酒がペアリングされるコース3種(12,000円・16,000円・21,000円 税抜き)が用意されている。
店の場所は非公開で予約成立時に知らされる方式だが、一応台東区内であるため、食べログのシステム上台東区役所が表示されているが、実際の場所とは異なる。
いつもの食べ歩きの友人との忘年会の第2弾の場所として、12月最後の土曜日の夕刻、教えてもらった所番地を頼りに何とか定刻に到着。
久々にお目に掛かるご主人に温かく迎え入れられた。
この日は贅沢にも我々の貸し切りで、入ってすぐのカウンター中ほどの2席が用意されていた。
事前にお勧めの真中の16,000円のコースをお願いしておいたが、どんなものが出てくるか期待に胸が膨らむ。
内容は次の通りで、さらにそれぞれにショットグラスに一杯程度(所望すれば追加も可能)でペアリングされた、ご主人選りすぐりの銘酒を併記する。
「雲丹入り蓮根饅頭 百合根あん」:粗くすり下ろした蓮根を練ったもので生雲丹を包んで蒸し上げ、百合根を加えた出汁の餡がたっぷりと掛けられている。
蓮根のモッちりした食感と、ほっこりした百合根入りのとろみに身も心も温まる、この時期のコースのスタートに相応しい逸品。
*みむろ杉 華きゅん 純米吟醸 おりがらみ
「カワハギの刺身」:目の前で薄く引いた刺身が皿に並べられ、たっぷりの肝と湯引きした腹皮も一緒に盛られる。
身の幅と肝の大きさから、かなり立派なカワハギと思われる。
適度な弾力が心地よく、肝を溶いた「肝醤油」に絡めても良し、身に肝や芽葱を巻き込んでも実に美味しい。
改めて私は刺身では河豚よりもカワハギが好きだなと思う。
*黒龍 特吟
「自家製からすみの炙り」:香ばしく炙られており、一片の幅から元々も結構な大きさと思われる。
しっかりした食感と適度な塩気で、凝縮した旨味が秀逸。
*而今 東条山田錦 純米吟醸
「炙り鯖の刺身」:軽く〆た鯖が大振りにカットされ、皮目はさっと炙られている。
出汁ポン酢が掛かっているが、炙ることで皮目の脂の旨味がアップ。
添えは茹でたアサツキで、シャキッとした歯触りと独特の風味が鯖の良さを引き立てている。
*武勇 純米吟醸 生酛 ひたち錦
「蛸と源助大根の炊き合わせ」:まず感心したのは蛸の柔らかさで、丁寧な仕事が窺える。
源助大根は加賀野菜の1つで、甘みが強く煮崩れしないのが特徴。
蛸の旨味が加わった出汁で煮含められた大根が、殊の外美味い。
*白老 辛口特別純米 旬ラベル
「雲子の葛引き」:料理名は判然としないが、鱈の白子である雲子のみで仕立てられた一品。
裏ごしして煮られ葛でとろみが付けられた上に、形のままの雲子もたっぷりと盛られている。
クリーミーな舌触りが秀逸で、濃厚な雲子の旨味を余すところなく楽しめる。
*四万十川 純米大吟醸
「蛤のそばがき」:蛤を煮出した濃い目の出汁でそばがきを作り、別にさっと火を通した大振りの蛤の身がカットして合わされている。
蕎麦は粗挽きで粒々感が面白く、さらに貝の旨味も効いている。
*奥能登白菊 純米吟醸 火入れ
「鴨ロース 金柑・グリーンオリーブペースト添え」:岩手産の鴨の胸肉のローストが厚めにスライスされており、噛めばジューシーな旨味がほとばしる。
添えは金柑の煮物と擂りつぶしたグリーンオリーブで、味のアクセントとして好ましい。
*手取川 純米生原酒 しぼりたて
「カマトロのちらし寿司 いくら乗せ」:赤酢が打たれた酢飯の上に小角切りにされたカマトロが盛られ、さらにたっぷりのイクラも乗っている。
赤酢のシャリが美味しく、これにカマトロやイクラが加わり目にも舌にも華やか。
この後に蕎麦が2種類出される。
蕎麦1枚目は「平打ち」。
粗めの挽きを幅1.5㎝ほどに伸したやや白っぽいきしめん状で、産地は聞き逃したが配合はほとんど十割とのこと。
まずは添えられた塩を少量振ってみるが、噛みしめると香りと甘みが感じられる。
間を置いて出された2枚目は定番の「黒そば」。
挽きぐるみで少々ザラっとした舌触りだが、芳しい香りとしっかりした歯応えは相変わらず。
つゆはまろやかな味わいで、'かえし'と出汁とのバランスの取れた丁寧な仕事。
私が時々やる、蕎麦を先に啜りその後で少量のつゆを口に含む手法で最後まで食べ進めたが、蕎麦の良さを楽しむには好適である。
蕎麦湯は余分な手を加えない自然体のため、すっきりと〆られる。
蕎麦単体ならまだしも、コースの締めくくりとしてはやはり蕎麦湯はさらっとしたタイプが相応しい。
ご主人も多少の試行錯誤はあったようだが、このスタイルに落ち着かせた見識を評価したい。
期待通りの、いや期待以上の満足感であった。
ご主人の技とセンスが発揮された作品群はいずれも見事。
料理9品に蕎麦2種、さらに酒も十分に楽しめてこの値段は良心的に思う。
3時間ほどの、充実したひと時を満喫。
ご主人と言葉を交わしながらのカウンター席の居心地は、実に快適である。
これからも通うことは確実で、季節ごとに変わる料理も酒も大いに楽しみ。
事前に予約が必要だが、一人でも受け付けてくれるとのこと。
昼に時間を設けて訪れるのも良さそうだ。
これを持ちまして、今年度の最後のレビューと致します。
今年は新型コロナウイルスに翻弄される一年でありましたが、私個人としては何とかつつがなく過ごすことが出来ました。
レビューも再訪店が多いものの、コンスタントにアップできたのは幸いでありました。
これも日頃からご覧いただいている、皆様方のご支援の賜物と感謝申し上げます。
年が改まってもコロナ禍については先の見えない状況が続くようですが、早く以前のような穏やかな日常が戻ることを願っております。
どちら様も、どうぞより良い年をお迎えください。
2020/12/31 更新
前回訪れたのが一昨年の暮れ。
そろそろ再訪せねばと思っていた所に、前回もセッティングして頂いたマイフォロアーさんから2月末に閉店という情報がもたらされ、その前にご一緒しませんかと言う有難いお誘いを頂戴する。
以前は店の場所が明かされていなかったが、現在は開示されている。
しかし分かり難いことには変わりなく、ご一緒する2名の方と三ノ輪の駅に集合して土手通りから向かう。
人通りもまばらな道筋を多少迷いながらも到着し、引き戸に手を掛けるとご主人は和やかに迎え入れてくれた。
こちらは料理と酒がペアリングとなった「おまかせコース」の一択だが、ご主人の佐々木さんの抽斗の多さには定評があり、今回もどんな料理が登場するか大いに楽しみである。
次のような品々が登場し、それに合う酒が注がれるスタイルで進行。
料理名は思い付きのため定かでは無く、また酒についての論評も記憶が大分曖昧である点をご容赦願いたい。(料理:〇 酒:●)
●「亜麻猫」が食前酒的に出された。新政が出しているブランドの一つで、酸味や甘みと共に独特の香りが印象的。
〇「白子の茶わん蒸し」は海老やホタテのコライユなどが入った茶碗蒸しの上に雲子が乗り、たっぷりの餡で覆われ黒胡椒と芽葱がアクセントとなっている。
熱々で食べ応えも有り、この時期ならではの一品で上々のスタートとなる。
〇「雲丹と帆立の出汁ジュレ」は生の帆立の角切りに出汁のジュレが掛かり、たっぷりの雲丹が乗せられている。
一転して冷たい料理が舌に楽しく、雲丹と帆立の確かな旨味が心地よい。
●「山の壽 THE KAN」で、本来燗向きの酒だが冷でも美味い。
〇「太刀魚の炙り刺し」は皮目を炙られた太刀魚が刺身に引かれ、おろし醤油が掛けられている。
捌いてから少し寝かされているようで身が締まり、皮の香ばしさと脂の旨味が印象的。
●「松みどり 純米生原酒」は丹沢の酒で、ふくよかに広がる味わいが良い。
〇「蛍烏賊と水雲の羹」は富山湾の生の蛍烏賊をサッと煮て、その出汁に佐渡の細もずくを合わせている。
蛍烏賊はプリッとした食感で、羹と呼んでよいか分からないが、葛を引いたような水雲の自然のとろみが面白い。
触感が優しい器は輪島塗で、今回の震災を被った日本海沿岸地方に思いを馳せた一品。
●「常山」はこれも北陸の福井の酒が合わされたが、しっかりした旨味が感じられる。
〇「豪華カマトロちらし」は、こちらの名物と呼べる贅沢な創作鮨。
赤酢を打った酢飯の上に、一口サイズにカットされた炙りとろ・トロのづけ・赤身のづけがたっぷりと盛られ、さらに中央に雲丹が盛られている。
酢飯はまだ仄かに温かく、炙って溶けた脂の旨味と相俟った美味さは正に口福の極み。
●「東魁盛 純米大吟醸」は千葉の富津の酒。華やかな香りと滑らかな口当たりが印象的。
〇「クリーミー白子」は料理名は思い付きだが、毎回登場するご主人渾身の逸品でこちらの名物の一つ。
以前は葛粉でも入っていると思っていたが、実際は裏ごしした鱈の白子と出汁だけで練り上げられており、クリーミーさと濃厚な旨味が見事。
●「にいだしぜんしゅ にごりめろん」が熱燗で出された。
自然米(農薬・化学肥料を一切使わず栽培した酒米)を使った純粋な酒で、メロンを思わせる芳香が特徴だが、敢えて燗にすることでふくよかさが引き出されているように思う。
〇「かますとホウレン草の和風ソテー」は3枚おろしのカマスをフライパンで軽く焦げ目が付くくらいに焼き、肉厚のほうれん草のソテーが添えられ、粒マスタードを使ったソースが掛けられている。
カマスを一口食べると甘いことに驚くが、訊くと砂糖で〆ているそうで、塩と同じように砂糖にも水分を抜く作用があり〆鯖なども塩で〆る前に砂糖を使うことが有る。
かます単独では味に?が付くが、ほうれん草の塩気と粒マスタードの風味が加わることでしっかり味が決まることに感心。
●「八海山 しぼりたて原酒'越後で候'」は何と平成26年製造の10年寝かした酒で、芳醇さが濃密な味わいの料理とよく合っていた。
〇「クマ海老の西京味噌漬け焼き・赤大根・雲丹バター」
クマ海老とは大型の車海老で火を通すと綺麗なオレンジ色に発色し、やや甘目の西京味噌に漬けられたものが焙り焼きにされている。
身は大振りで食べ応えが有り、本来は殻まで食べるのは無茶だが、焦げ目が付いた香ばしさから硬い皮や足・尻尾まで全て平らげてしまった。
一見すると赤カブのような赤大根はボイルしただけのようだが、素朴な食感と甘みが特徴。
添えられた雲丹バターはそのままで肴に良いが、大根に付けても面白かった。
●「一品だけ 初しぼり上澄み」は、まさに清澄な味わい。
〇「穴子とマッシュポテト」は、江戸前鮨屋のようにじっくり煮含めた大振りの穴子でマッシュポテトを覆い、これも鮨屋のツメのようなタレが垂らされ、コゴミの緑が色を添えている。
濃厚なツメが柔らかな食感の両者を結び付け、実に面白い味わいと舌触りを見せている。
●「三笑楽 蔵出し生原酒」が合わされたが、しっかりとした旨味が感じられる。
〇「牡蠣ごはん」は炊き上がった釜の蓋を開けて、立ち上がる湯気と香りと共に披露され、さっそく茶碗に盛られて出された。
ちょっと蒸らしが足りないかなと思うが、出汁の旨味が米の一粒ごとに浸み込んだご飯が美味しい。
結構大粒の牡蠣は後で加えられているため、プリッとした食感が保たれておりジューシーさも失われていない。
〇「二種そば」が出されたが、その日のコンディションにより最良の蕎麦を打つと言うご主人の思いが込められている。
香り高くシャキッとした歯触りの「外一のせいろ」と、吾妻橋の頃から引き継がれる、やや滑っとした舌触りの太目の「粗挽き」。
ともに良い出来だが、添えられた塩を箸先に着けて手繰るも良し、出汁の旨味とかえしの深みが融合した濃い目のつゆに先端を浸して啜っても実に美味い。
牡蠣ご飯まで入るボリューム感のある蕎麦前のあとながら、スルスルと完食。
蕎麦湯は衒いの無い自然体のため、気持ちよく〆られた。
〇「ブランマンジェ蜂蜜添え」が甘味として出された。
モッちりした食感の上に、ご主人の故郷の市原産の濃厚な蜂蜜が垂らされており、結構甘さが強いが蜂蜜が上質であるため後味は案外すっきり。
今回も期待通り、いや期待以上の充実した蕎麦屋酒が楽しめた。
次々と繰り出される作品群は何れも見事で、改めてご主人の創意と技術力に感服。
久しぶりにお目に掛かったマイフォロアーさんとの会話も弾み、実に快適な時間が流れた。
実はこの日は当初4人での予約だったが、急遽お一人が欠席となったため4人分の料理を3人に分けて出されたため、確かに分量も多めだったが満足度は倍加したような気がする。
前述通りに、大家の都合で2月いっぱいで閉店を余儀なくされる。
こちらは元々建築家であったご主人が自ら内装を施した店で、愛着が有るとのこと。
閉店はまことに残念であるが、またどちらかで復活することは間違いないと思われる。
何となく寂し気なご主人に見送られて店を後にする。
またどちらかで再会できることを心待ちにしたい。
末筆ながらこの場をセッティングして頂いたAさん、並びにご一緒していただいたHさんに、改めて感謝申し上げる。