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夜の点数:4.8
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¥10,000~¥14,999 / 1人
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料理・味 4.8
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|サービス 5.0
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|雰囲気 4.6
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|CP 4.8
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|酒・ドリンク 4.8
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[ 料理・味4.8
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| サービス5.0
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| 雰囲気4.6
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| CP4.8
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| 酒・ドリンク4.8 ]
700件目は蕎麦懐石の名店
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2017/05/03 更新
投稿システムが変わって以来、件数のカウントの拠り所がはっきりしないが、一応'口コミ数700件目'のキリ番として選んだのはこちら。
今年度のミシュランガイドにも一つ星で掲載されている、蕎麦懐石の名店である。
以前は多摩の五日市に店を構えていたが、2年少し前に都内の人気スポットの一つである根津に移転して来た。
前の店には終ぞ訪れることは無かったが、私には馴染み深い所に移って来たので、伺う機会を狙っていた。
実際の訪店日とは多少前後するが、キリ番に相応しい店として取り上げさせていただく。
場所は不忍通りから少し入った所で、蕎麦屋でも「よし房凛」、「鷹匠」といった人気店のすぐ近く。
土曜の夜に知人のマチネコンサートの帰り、いつもの友人と二人で訪れる。
事前に5時半からの予約を入れておいた。
この界隈は昔から良く知っているので迷う訳は無いと思っていたが、実際に近くまで行くと狭い路地に面したちょっと引っ込んだ場所のため、少々面食らってしまった。
それだけ目立ちにくいひっそりとした佇まいである。
格子戸に手を掛けると、笑顔が素敵な着物姿の女将さんが明るく迎え入れてくれた。
内部もカウンター5席とテーブル1卓4席のこじんまりとした構えで、照明を抑えた静謐な雰囲気が漂っている。
我々には、カウンターの中央部分の2席が用意されていた。
こちらは、完全予約制のコース料理(8,500円)のみ。
料理は全てお任せで、どんなものが出て来るか大いに期待して臨む。
ちなみにこちらは、料理や店内の写真撮影は一切禁止であるため、内容については多少曖昧な部分があることはご容赦願いたい。
まずは飲み物を頼もうと品書きを眺めると、希少な銘柄も含めてなかなか魅力的なラインアップ。
まずは食前酒として、山形天童の「出羽桜'咲'純米スパーリング酒」をもらう。
300㎖のボトルが、透かし彫りが施された洒落た脚付きのグラスと共に運ばれた。
豊かな香りと爽やかな口当たりで、上々のスタート。
料理は次のような品々が、タイミング良く運ばれて来る。
*そばがき:蕎麦の品種は、茨城産の「常陸秋そば」。
まる抜きを挽いた粉を練り上げ、蓋付きの椀に湯を張った状態で供された。
多少の粒々感も有りながら、しっとりと舌に吸い付くような食感が嬉しい。
もちろん香りも素晴らしく、少量の塩を振ることで甘味も際立つ。
*蕗の薹味噌の炙り:薄い杉板に塗り付けた萌黄色の味噌を、女将さんがカウンター端の火鉢で炙ってくれた。
ほのかな苦みと香ばしさが心地良い。
*八寸風口取りの盛り合わせ:5寸四方の市松模様の越前塗りの重箱が、2段重ねで登場。
蓋を開ければ、まず綺麗な盛り付けに目を奪われる。
女将さんから一品ごとに、細かな説明が添えられる。
「一の重」には「春子の唐墨和え・白魚と菜の花の酢味噌和え・そばの実を散らしたこのわた」が、それぞれぐい飲みのような小鉢に盛られて収まっている。
何れも良い出来だが、特に「このわた」の美味さが光る。
「二の重」には「春菊白和え・春鱒柚庵焼き・太刀魚塩焼き・のどくろの煮凝り・鰯旨煮・蛍烏賊燻製・飯蛸煮・槍烏賊けんちん蒸し・小松菜お浸し」、それに「筍・新じゃが・蕗・大根・椎茸などの野菜の煮物」、型で抜かれた2色パプリカといった品々がびっしりと盛られている。
いずれにも丁寧な仕事が確認でき、味の濃淡、食感の硬軟のバランスも良く考えられている。
端の方には刺身のつまのような、大根・貝割菜・葱・生姜といった繊切りの生野菜が配されているが、これを合間に口にすることで舌をクリーンにて味わってほしいとのこと。
*牛蒡味噌:新物の牛蒡が甘めの味噌で和えたものが少量出され、この後のお椀への橋渡し的な役割を果たす。
こちらの献立が酒を飲ませることを前提に、組み立てられていることが判る。
*さらしな蕎麦のかけ:そうめんのように極細に打たれた「さらしな蕎麦」を、淡麗な出汁に泳がせている。
蕎麦は北海道産とのこと。
食感は儚げだが、旬物の蕨が季節感を添えており、コースの中の椀物としては秀逸な味わい。
*そば鮨二種:2種の魚(金目鯛とのどくろ)と蕎麦を使った押し鮨。
金目鯛は霜降りにされてから醤油で'づけ'にされており、もう一方ののどくろも皮目を炙ってから軽く酢で〆ていると思われる。
これを硬めに茹で上げてから酢を打たれた蕎麦を台にして鮨に仕立てており、カットされた断面が美しい。
魚の身はかなり厚く旨味が濃い。
適度に酢の効いた蕎麦との相性も良く、食べ応えは十分。
*玉子焼き:平飼いの卵が使われているとのこと。
焦げ目の付かない綺麗な色合いで、江戸前の蕎麦屋の仕事とは違うが、さりとて関西割烹の仕事とも異なる程良い仕上がり。
*せいろ蕎麦:「常陸秋そば」をそば殻を付けたままの玄そばを挽いた「挽きぐるみ」を、篩にかけた粉を使用。(最近はそば殻を取り去った「まる抜き」を、一番粉・二番粉などに挽き分けずに、全てを纏めて粉にしたものを「挽きぐるみ」と呼ぶことも多いが、元々の「挽きぐるみ」はこちらを指す)
それが極細に打たれているが、十割とは思えぬほど綺麗に繋がった優れた仕事である。
当然ながら細かな星が見えて香りも強いが、茹で上げも精妙なためきちんとした食感を残している一方で、舌触りは思いのほか滑らかで喉越しも良い。
つゆは甘さを控えたきりっとした味わいだが、かえしと出汁のバランスは取れており、一切の雑味のない優れた仕上がり。
薬味には「山わさび」のおろしが添えられ、これは当然ながらつゆには溶かずに、少量ずつ舐めるように食べ進める。
蕎麦湯はそれなりの手は加わっているが、嫌らしいほどの粘度は無く、気持ち良く〆られた。
酒の注文については女将さんに相談。
おすすめの酒瓶が目の前に並べられ、特性などを懇切丁寧に伝えてくれたが、なかなかの造詣の深さに感心。
選んだ銘柄は、先に福岡八女の「繁桝 特別純米」、その後に愛知岡崎の「萬歳 大吟醸」。
何れも口当たりといい旨みと言い、料理に上手くフィットして楽しめた。
期待通りの、実に満足度の高いひと時を過ごすことが出来た。
個々の料理に施された技もさることながら、さらにそれをコース仕立てにすることで完成度の高い流れを生んでいる。
何より好印象だったのはチャーミングな女将さんの、かいがいしい接客振り。
山村紅葉さんを細くして、さらに上品にした感じで、なかなか饒舌だが決して押しつけがましさは無く、何とも気持ちの良い空気感を醸し出している。
その昔は前の店に通っていたお客さんだったそうで、その当時ご主人一人で賄っていた仕事振りを見かねて手伝ううちに結婚に至ったそうで、'押しかけ女房なんですよ'などといったことを、あっけらかんと語っていた。
お勘定は二人で2万円ちょっと。
料理の内容と手間ひまの掛け方に照らせば、良心的である。
帰り際には奥からご主人も姿を見せられ、ご夫妻で表まで出て見送ってくださった。
折しも雨の降り出した天候にも関わらず、清々しい気分で店を後にすることが出来た。
ミシュランガイドで星を取っている都内の蕎麦屋では、首を傾げざるを得ない処も在るが、こちらは一つ星に値する料理の出来とホスピタリティの良さを実感。