受け継ぐ心と味 : 味享

2024.4.

受け継ぐ心と味／味享

菜の花 唐墨・卵黄の味噌漬け 百合根・白魚の桜煮
前菜は3種。菜の花には唐墨パウダーをかけており、卵黄の味噌漬けには百合根、白魚は裏漉しした梅と桜の葉で炊いたもの。席でもお花見が出来るようにとの井上さんの心遣いが素晴らしい。そして、何よりも美しくて美味しい。

福岡県合馬産 筍の炭火焼き♡♡
真っ黒に焼かれた筍を木の芽塩と出汁醤油で。コレが食べたくて、春に予約したと言っても過言ではない待ち焦がれた料理。ザクッと歯切れの良い筍は、口の中で爆ぜるほどの甘味と香りがあります。そして食べ終えても尚、存在するかのような甘味と香りの余韻を楽しめます。

桜餅 山葵餡♡
蓋を開けると、桜の葉の香りがふわりとし、桃色の桜餅が現れます。桜餅の中にはぐじが入れられており、爽やかな山葵餡の中で旨味が溢れます。

ぬた和え♡
蛍烏賊・赤貝・うるい・わけぎ。様々な食感が織りなすオーケストラのような料理で、蛍烏賊の濃厚な旨味が特に印象的。

白魚の天麩羅 & 芹の天麩羅♡
島根県宍道湖産の白魚は大きく、旨味と甘味が凄い。後から供された芹はほろ苦いのかと思いきや、とても甘い。

真鯛のお造り♡
兵庫県明石産。脱水されている身はモッチリとして、口の中で跳ねるようにプリプリ。その食感を楽しんでいると、溢れ出すのは旨味と甘味。

筍豆腐のお椀♡♡
鰹出汁の吸地の中にあるのは、なんと筍で作った豆腐。上には蕨・蕗・独活があり、春の香り満開。筍の甘味が鰹出汁の中で映え、日本人で良かったと心から思える味わい。

金目鯛の味噌漬け♡♡
身は味噌漬けにして、皮目は太白胡麻油で揚げ焼きにして、鱗を立たせています。元々、味噌漬けは大好きですが、コレは別格に美味しい。口の中で鱗のパリパリ感の心地よく、味噌の甘味と金目鯛の旨味が合わさり、素晴らしい美味しさ。

揚げ蕨と湯葉の炊き合わせ♡
個別にいただいても美味しいですが、蕨を湯葉で包むようにしていただくと…異なる2種の食感の中で甘味が映えます。決して豪華な食材ではないけれど、染み染みと美味しいひと品。

〆ご飯①牛肉の時雨煮♡
旨味がギュッと詰まった時雨煮は、ご飯の上に乗せるとその熱でゆっくりと油が溶けていき、更に美味しくなるかのよう。日本人のDNAを刺激するような甘辛い味わいは、とてもご飯が進みます。

〆ご飯②鮭のハラスご飯♡♡
最近は鉄火丼ではなく、このハラスご飯が主流だという。炊き立てのご飯の上にたっぷりと解したハラスを盛り、仕上げにパリパリの皮を添えて。確りと脂が乗ったハラスが不味いわけがなく、鮭の旨味がご飯に染み出して、一気にかっ込みたくなる美味しさ。

水羊羹♡
甘味はちょこんと乗せられた岩梨がキュートな水羊羹。口の中に入れると、一瞬で液体になる口溶けが凄い。甘味のほんのりとしていて、美味しい。

「長らくお待たせしました」とご丁寧なご挨拶していただいたのは、約11ヶ月ぶりの再訪となった新橋にある日本料理店「味享」の店主・井上 享俊さん。多くの方が今は亡き西 健一郎さんの「京味」を継承するお店として挙げられているのが、このお店です。残念ながら、私は西さんの「京味」を知りませんが、「豪華な食材に頼らず、今が旬の食材を見れば、作るべき料理は自ずと見えてくる」という西さんの教えを忠実に再現しているのが、井上さんの料理なのでしょう。

染み染み美味い

そんな言葉がしっくりくる素晴らしいお店です。

今夜出逢ったお酒

紀土 ＫＩＤ 春ノ薫風

2023.5.

受け継ぐ心と味／味享

うすい豆の翡翠煮♡
豆の香りが口の中で弾けるように広がり、鰹出汁のほんのりとした甘味が愛しい。

前菜♡
今回は端午の節句の5月ということで、ちまきに見立てた甘鯛の昆布〆・鱧焼き・矢生姜・桜鱒と新蓮根。
中でも白眉なのは、甘鯛でしょうか。脱水して、代わりに昆布の旨味を吸った甘鯛はねっとりとして笹の香りをも楽しめます。

芋茎の吉野煮♡
シャリシャリとした芋茎の食感と出汁の旨味が優しく包むよう。「日本橋人形町川田」でよくいただきますが、こちらの方が旨味が強い感じ。

海胆と茄子の田楽♡
茄子の田楽の上に乗っているのは、左側のは愛媛県産の赤海胆、右側のは「はだて水産」の北紫海胆。
まず「はだて水産」北紫海胆は、とろりとした茄子と混ざり合っても尚、海胆の甘い香りが確りとします。赤海胆はまだ味わいは弱いのか、ほんのりとした甘味が茄子を覆うよう。海胆の違いによって、香りと甘味を演出するような仕立て。

赤貝と平貝の土佐酢ジュレがけ♡
赤貝・平貝の下にはウド・浜防風があります。土佐酢のジュレの酸味はカドがなく、爽やか。赤貝・平貝の食感とウド・浜防風の食感のコントラストがとても小気味よい。

潮騒河豚の白子とホワイトアスパラの揚げ物♡
サクリとした衣に包まれたホワイトアスパラはほんのりとした苦味があり、その後に甘味が広がります。潮騒河豚の白子は薄衣に包まれた甘味の爆弾。白子の甘味はダイレクトに感じられて、実に美味しい。

真鯛とワラサのお造り♡
兵庫県明石産の真鯛は肉厚でプリプリとしてながらも、咀嚼していると身がとろりとしてきて、甘味が映えます。
石川県能登産のワラサは腹の濃厚な部位。細かく隠し包丁を入れることで醤油のノリが良く、旨味の溢れ方が素晴らしい。

鮎魚女と菜花の椀物♡♡
大ぶりな鮎魚女はとろりとした舌触りを感じた後に旨味が溢れ、梅肉の酸味でより甘味も感じられます。吸い地は昆布の力強さがあり、それは濃度ではなく芯の強さのようで、木の芽の香りも清々しい。

稚鮎と淡竹の黒胡麻和え♡
滋賀県琵琶湖産の稚鮎は骨を感じない柔らかさで、ほろ苦く旨味があって美味しい。あっさりとした淡竹の旨味と香りの中に黒胡麻のコクが加わって、まさに絶妙。

信田巻きと蕗の炊き合わせ♡
今回の炊き合わせは、蕨を油揚げで巻いた信田巻きとばちこを差し入れた蕗。中でも蕗が実に美味しい。蕗の香りとばちこの香りが口の中で一緒に広がり、未体験の美味しさ。

〆ご飯①牛肉の時雨煮♡
炊き立てのご飯のお供は、牛肉の時雨煮と香物。日本人のDNAを刺激するような甘辛な味わいで、ご飯の熱で牛肉の旨味が蘇るようで実に美味しい。

〆ご飯②鮪の漬け丼♡♡
鮪の赤身と中トロを漬けにして、交互に盛り付けて、下にはすき身を入れた鮪尽くしの小丼。鮪のグラデーションの見た目も美しく、どこに箸を入れても鮪に当たるボリュームで、何より美味しい。

蕨餅
黒蜜を入れた出来立ての蕨餅。

今は亡き「京味」西 健一郎さんの味を受け継ぐ井上 享俊さんの「味享」に再訪。新橋の駅前の喧騒から離れた立地にあり、店内は激狭ながらも凛とした空気が流れます。
今回の献立を通して見ても、如何にもという高級食材はなく、丁寧且つ食材の美味しさを大切にした料理はひと口目で美味しいと感じるのではなく、染み染みと美味しい。ひと皿に甘味の違い、香りの差、食感のコントラストが織り交ぜられており、その違いを見つけて楽しむこともでき、どの皿もハズレなく美味しい。
既に今年分は満席だそうで、次回の再訪は来年以降になりそう。またご縁がありましたら、食べさせていただきたいと思います。

2022.11.
受け継ぐ心と味／味享

海鼠腸の飯蒸し♡
この時期の定番料理だそうで、海鼠腸の旨味がガツンときて、それを受け止める固めの餅米が美味しい。

前菜
唐墨衣被・クワイチップ・蒸鮑・枝豆・梭子魚・猿柿(うずらの玉子)。
どれも丁寧な仕立てで、どれも美しい。個人的に面白いと思ったのが、猿柿を模したうずらの玉子。黄身も一度かき出してからまた詰め直して、ヘタも昆布で作っているという芸の細かさ。

香箱蟹♡
兵庫県津居山産。今が旬の雌のずわい蟹である「香箱蟹」を身と共に内子・外子も甲羅に詰めて、ここに軽い酸味を追加しているようで、蟹本来の甘味を確りと感じられて美味しい。

ぐじの栗蒸し餡かけ♡
ひと塩したぐじを削った丹波栗と合わせて、山葵餡をかけてもの。
丹波栗は粗いのと細かいの2種あり、それぞれ食感と甘味と旨味の違いが楽しめ、山葵餡が全体を〆ており、よりぐじの旨味が際立ちます。

海老芋の唐揚げ♡
大阪府富田林産。一度蒸してから出汁で炊き上げて、葛粉を付けて揚げたもの。
ねっとりとして甘く、香ばしい軽い塩気があり、より甘味を感じられます。

真鯛のお造り♡
兵庫県明石市。歯を跳ね返すほどにブリンブリンな身は咀嚼の度に甘味が引き出されてきて、実に美味しい。特に別皿にある大徳寺納豆を巻いていただくと、想像以上に旨味が増して美味しい。

昆布舟のお椀♡♡
お椀の中には酢で柔らかくして舟の形に整形した昆布とそれに乗るように巾着椎茸・天然なめこ・京菊菜が盛られています。
まさに身体に沁みる味わい。昆布の旨味が食べているうちも溢れ出してくるようで、搾り入れた柚子の酸味が味わいの角を落として、実に円やか。

赤むつの味噌漬け♡
粒白味噌を煮切った味醂で伸ばした味噌床で漬けた赤むつは、とても上品な甘味と喉黒の旨味が合わさって美味しい。添えてあるのはセロリの土佐酢漬けで、酸っぱすぎない酸味がいい口直しになります。

炊き合わせ♡
京かぶら・車海老・絹鞘。三種三様の味わいの中で白眉なのは、京かぶら。一度かぶらを蒸して脱水してから焼いた鯛の中骨で取った出汁で炊いているそうで、旨味の染み込み具合が素晴らしい。

〆ご飯①牛肉の時雨煮♡
底の浅い釜で炊き上げたピカピカの白米はそれだけで、立派なご馳走。別皿にある牛肉の時雨煮は味の染み込み方が素晴らしく、日本人のDNAを刺激する甘酸っぱさ。

〆ご飯②鮪の漬け丼♡
産地までは聞きませんでしたが、なかなか素晴らしい鮪。赤身と中トロをそれぞれ漬けにしてから、海苔を敷いたご飯の上にすき身と共にたっぷりと盛られます。ご飯が止まらないくらいにコレも美味しい。

蕨餅
奥でパタンッパタンッと音がしており、ご常連の方が「味享のお別れの音」と称していて、何かと思っていたら蕨餅を作る際の音なのだそう。確かにコレはあまり聞きたくないw

かつて新橋にあった日本料理の名店「京味」の故・西健一郎さんの味を引き継ぐ井上 享俊さんが2019年にオープンさせた「味享」に初訪問。JR新橋駅から5分くらいの立地にあり、かつて「新ばし 星野」があった跡地にお店はあります。店内は7〜8席のカウンターのみで、厨房も客席もかなり狭い。

「京味」では煮方を担当されていたという井上さんが作り出す料理は、故・西 健一郎さんから引き継いた味。

「日本料理は季節の味。巡る季節によって食べたいと思う料理、そしてそれを食べることで思い出す人。料理とは記憶なのです」

そんな風に語る井上さんの料理は脳を震わす味わいではなくて、心に沁みるほっこりとする味わい。食材はピンのものでしょうが、高級食材がオンパレードすることはなく、全ての料理が染み染みと美味しい。
ご縁をいただいたので、「味享」で四季を感じてみたいです。