1回
2022/06 訪問
愛のある食卓
2022年6月のメニュー
× ノンアルコールペアリング
◆トマトの冷製スープ
水を使い、ドライトマトからエキスを抽出したクリアなスープに、鰹節の風味を纏わせたもの。上にはエクストラバージンオリーブオイルを数滴。トマトの酸味と鰹節の旨味という組み合わせが、まるで梅昆布茶を思わせる不思議な和風テイストを作り出す。
◆馬肉のタルタル
こちらのspécialité。カリカリの自家製ラスク生地に、馬肉のタルタルとビーツのマリネを乗せたもの。香り付けには食欲をそそるクミンを。同じように見えても、季節や作り手によって香りや食感などの表現方法が微妙に異なっており、その些細な変化を感じながら頂くのも面白い。
× Darjeeling 1st flush (Singbulli) 水出しスパークリング
水出しのダージリンをベースにハーブやスパイスを加えて、心地良い清涼感を実現。舌に残る柑橘系の余韻がそれぞれのお料理の酸味とリンクする。
◆烏賊墨のチヂミ
烏賊墨を使ったチヂミは真っ黒。チヂミの中にも具として烏賊が使われる。外はカリカリ、中はフワッと、上に乗ったオクラは同一幅で切り揃えられており、食感のコントラストは見事。オクラが敷き詰められたチヂミの表情も美しい。コクのあるチヂミには、オイスターソースとバルサミコ酢を使った甘酸っぱいソースが良く合う。
× 和紅茶 みねかおり
宮崎県で栽培されている和紅茶みねかおりに、ラ・フランスの果汁を加えたもの。個性的だと思われたラ・フランスのトロっとした甘味が、チヂミの甘酸っぱさに奥行きを与え、想像を越えた調和を見せる。
◆帆立貝とアスパラガスのサラダ仕立て
温と冷、二つの温度帯に仕立てた野菜を一つのお皿に盛り込んだ一品。根セロリのピュレの上に、ソテーした帆立貝とアスパラガスの温かいパーツを乗せ、さらに、スナップエンドウ、キウイフルーツ、リーフレタスなどの冷野菜で飾る。塩味には自家製ビーフジャーキーを、帆立貝に合わせるようにクラムチャウダーの泡を乗せる。シャキシャキとした冷野菜の食感、帆立貝の瑞々しい貝出汁の旨味、アスパラガスの野性味、キウイフルーツの酸味などが口の中で重なり合い、多幸感をもたらす。
× 緑茶 さやまかおり
やぶきたの自然交雑実生から選抜・育成されたというさやまかおりに、オレガノなどのハーブで香り付け。加えられたレモンで爽やかな後味を演出する。
◆じゃがいものニョッキ
軟らかく、もっちりした食感。口溶け滑らかで、咀嚼しているうちにじゃがいもの香りを残して溶けていく。ニョッキと同じ大きさに整えられたホワイトアスパラガスは瑞々しく、食べ応えもある。白味噌を使ったソースが絡み、まろやかな仕上がり。上にふりかけられたやまつ辻田さんの柚七味は香りが良く、嫌味のない良いアクセントになっている。
× 白茶 シルバーニードル
軟らかな新芽の先は産毛に覆われ、銀色に輝く。花のような香りと柔らかな味わい。
◆金目鯛のポワレ
金目鯛は、旨味を携えたしっとりとした身質に、パリパリした食感の皮目。胡麻油が香る、蛤出汁の利いた中華粥をソースとして合わせるという発想。見た目はフランス料理のようにも見えるが、この味わいは中華料理。味わいは穏やかだが、口に入れたときに感じられるインパクトは大きい。
× 熟成三年番茶
香ばしい番茶にシナモンや八角を加え、中華料理に寄り添うようなアプローチ。
◆大山どりのロティ
大山どりモモ肉のロティ、砂肝のコンフィ、レバーペーストを盛り付けた、焼鳥をイメージした良いとこ取りの一皿。しっとりとしたモモ肉とカリカリの皮目とのコントラストは相変わらず秀逸。マルサラワインとフォン・ド・ボーを合わせた、焼鳥のタレを思わせる甘じょっぱいソースがよく合う。付け合わせにはピーマンと辣韭の酢漬けを。
× プーアル茶とブラックティー (Kuwapani) のブレンド
プーアル茶とブラックティーをブレンドしたお茶に、トンカ豆やカルダモンで香り付けし、キャラメリゼした砂糖やカカオビネガーで複雑な甘味や酸味を追加。赤ワインに見立てた香り高いお茶。
◆鶏ブロードのリゾット
穏やかだが濃厚。このブロードのリゾットは食べた者を虜にするほど美味い。食感のアクセントには刻んだセロリを。上にはやまつ辻田さんの山椒がふりかけられ、香りと味わいにメリハリが生まれる。皿の窪みから溢れんばかりに盛っていただき感謝。
◆蛤のボンゴレ・ビアンコ
プリプリの蛤を使ったボンゴレ・ビアンコ。乳化した蛤の出汁が、1.9 mmの太めのスパゲッティによく絡む。噛み締めているときに感じられる深いコクと長い余韻に酔う。
◆アヴァン・デセール
ライチのパンナコッタに、グレープフルーツの果肉と抹茶のグラニテを合わせた清涼感あるデセール。パンナコッタの甘味に、グレープフルーツと抹茶の苦味を合わせることで、グラン・デセールへと繋がる舌を作る。
◆グラン・デセール
白カビチーズであるブリア・サヴァランと練乳を使った、定番のアイスクリーム。出来立てのため、口溶けは滑らか。コク深さの中にほんのり酸味があり、濃厚な味わいでありながら後味は爽やか。
× IWA 5 ASSEMBLAGE 2
珍しく最後に日本酒を少々。株式会社白岩からリリースされた日本酒ブランド「IWA」シリーズの第二弾。バランス、口当たり、複雑さという特徴を持ち合わせるというが、確かにバランスが良く、味わい深い一杯である。
2022/09/02 更新
代々木上原駅東口を出て、右手の坂道を上ると見えてくる満席の店内。予約名を告げ、案内された席に着くと、そこからは活気ある厨房でリズムよくお料理が仕上げられていく様子が見える。
シェフが手掛けるお料理は、素材の味を活かした驚くほどシンプルな一皿もあれば、複数の味覚を刺激するような複雑な味わいを構成している一皿もある。ただ、どの一皿も次の一皿の布石になるように緻密な設計がなされており、食べ手はまるで「文脈」のある長編小説を読んでいるかのようなワクワク感を味わうことができる。
完成したお料理は、ホールのセルヴーズへ渡され、各テーブルへと運ばれて行く。目を輝かせながら自信を持って語られる彼女の説明からは、シェフが作り出す料理への愛情が感じられ、緊張した食べ手の心を解していく。
お料理に合わせて、ソムリエが飲み物を運んでくる。シェフが作り出す世界観に優しく寄り添っていたかと思えば、視界ががらりと変わるような感動的なマリアージュを見せてくれることもある。痒いところに手が届くような適切なコメントを添えて、いとも簡単に食べ手の心を奪っていく。
さらにこの店には、いまやメディアに引張蛸の名物オーナーシェフがいる。多忙につきお店で彼の姿を見ることは減ったが、誰よりも料理を愛し、誰よりも食べ手を幸せにしようと努力を重ねているのは、誰の目にも明らかで、そのスタンスは揺るがない。そうは言っても、やっぱりたまには、ホールでゲラゲラ笑いながら、料理愛について語ってほしい。
※ミシュランガイド東京2020, 2021, 2022 1つ星
2022/09/02 更新