6回
2021/06 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年5月 おまかせコースSP (貸切)
毎年5月下旬から6月上旬までの期間は、時期的に目ぼしい果物が多くないため、開催されるコースのテーマは特に決まっておらず、そのときある果物を使った吉崎シェフのおまかせコースとなる。数年前には「紅茶」「塩」「ハーブとスパイス」など、果物がないこの時期ならではのコースも開催されたことはあったのだが、ここ2、3年はメロンやマンゴーなど、初夏の果物を使ったおまかせコースが開催されている。
●フルム・ダンベール
「高貴な青カビ」と称されるブルーチーズ、フルム・ダンベールを使ったマカロン。マカロンの生地の上には、赤ワインと無花果のコンフィチュールとフルム・ダンベールのペーストが乗る。まったりとしたチーズのコクと香り、コンフィチュールの甘味が、クセになる味わいを作り出す。
●アスパラガス 蟹 帆立
アスパラガスのブラン・マンジェに、ずわい蟹、帆立貝、金目鯛のマリネを合わせたお皿。ソースの代わりにトマトのジュレを加えて。適度に水分が抜けた金目鯛は、むっちりとした弾力があり、甘味も強い。アスパラガスのブラン・マンジェは、濃厚な味わいで、青い香りがふわっと香る仕上がりだ。マリネの柔らかい酸味とトマトの甘酸っぱさとの相性もとても良い。
●パテ・アン・クルート
SPコースの定番、パテ・アン・クルート。豚肉、鶏肉、フォアグラなどで作ったパテをパイ生地で包んで焼き上げたフランスの伝統的な料理だ。焼き上がったパイ上部に開けた煙突部からコンソメを流し入れることで、パテとパイ生地の隙間には琥珀色の層ができ、断面も美しい。一枚を分厚く切った後に縦に二つに切ることで、一人前の量としては通常と変わらないのだが、口に入れた時に感じられる肉肉しさ、食べ応えが増し、食後の満足度も高まる。タスマニア産粒マスタードの酸味がとても良く合う。
●メロン アーモンド
器の窪みに、クレーム・ディプロマットで土台を作り、ココナッツミルクのブランマンジェとメロン、メロン果汁を重ねていく。その上にアーモンドのキャラメリゼとマスカルポーネチーズのアイスクリームを乗せ、ライムのグラニテをかければ、白色と黄緑色のコントラストが鮮やかなデザートが完成する。糖度が高い濃密なメロンに対して、ココナッツミルクとマスカルポーネチーズによりコクが追加され、食材同士の相性の良さが感じられる非常に美味しい一皿だ。最後に盛り込まれたライムのグラニテにより、後味も爽やか。メロン特有の青臭さもまったく気にならない。
●鴨
北海道産鴨肉のローストをマデラソースで頂く。付け合わせにはレンズ豆。肉を噛み締めるたびに、野性味あるレバーのような香りが感じられ、これがとろみのあるやや甘めのマデラソースに非常によく合う。こちらで頂く鴨肉は、抜群に香りが良いことが多く、いつもとても美味しいと感じる。
●ショコラ チェリー
濃厚で口溶け滑らかなクレーム・オ・ショコラに、優しい甘味のグリオットのコンポートを合わせ、さらにその上にコクの強いフルム・ダンベールのアイスクリームを乗せた一皿。芳醇なフルム・ダンベールのアイスクリームは、後味にわずかなチーズらしい塩味があり、これがクセになる味わいを作り出す。濃密なクレーム・オ・ショコラとの相性も良い。グリオットの甘酸っぱさが後味を引き締める。
●パフェ
最後のグラン・デセールをパフェにアレンジしていただく。メインとなるマンゴーやパッションフルーツといった南国の果物に、コクのあるピスタチオのクレーム・シャンティを合わせた、まさに常夏のパフェである。パフェグラスの底から、ソーテルヌ(貴腐ワイン)のジュレ、マンゴーのコンポート、クレーム・ディプロマット、パッションフルーツのソース、ピスタチオのクレーム・シャンティを重ねていく。パフェグラスの表面に作られたマンゴーとパッションフルーツの橙色とピスタチオの黄緑色のコントラストが眩しいほどに美しい。パフェ上部には甘酸っぱいマンゴーとパッションフルーツのアイスクリームが盛り込まれる。再び絞られたピスタチオのクレーム・シャンティの周囲に、フレッシュなメロンとマンゴーを飾れば完成だ。瑞々しいフレッシュなマンゴーの弾けるような香りととろけるようなマンゴーのコンポートの濃密な香りが同時に楽しめるだけでなく、しっかりと食べ応えもあり、満足度の高い一本だと感じた。
●小菓子
次回の訪問も非常に楽しみだ。
2021/09/08 更新
2021/05 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年4月 ピスタチオのコースSP (貸切)
毎年4月下旬から5月上旬にかけて開催されるコースのテーマは「ピスタチオ」だ。常連客の要望に応じて、どんどん濃厚さを増していったというピスタチオのクレーム・シャンティは、今ではこちらの代名詞となっているほどである。滑らかさが失われないギリギリまでピスタチオが含まれており、その芳醇な香りや濃厚な味わいは筆舌に尽くしがたい。4月のコースでは、その濃厚なピスタチオのクレーム・シャンティやアイスクリームを心行くまで楽しめるコース内容になっている。
●フルム・ダンベール
「高貴な青カビ」と称されるブルーチーズ、フルム・ダンベールを使ったマカロン。いつの頃からかSPコースの定番メニューとなったが、今年は今回が初めての登場となった。マカロンの生地の上には、赤ワインと無花果のコンフィチュールとフルム・ダンベールのペーストが乗る。まったりとしたチーズのコクと香り、コンフィチュールの甘味が、クセになる味わいを作り出す。
●新玉葱 蟹 帆立
トマトのジュレと人参のクリームの上にずわい蟹、帆立貝、金目鯛のマリネを盛り込んだお皿。上にかけた新玉葱のエスプーマはソースの役割だ。マリネした食材の旨味に華を添えるトマトの酸味と人参の甘味。玉葱を丸ごと味わっているような甘味の強いエスプーマは、柔らかな酸味のあるマリネと良く合う。
●パテ・アン・クルート
SPコースの定番、パテ・アン・クルート。豚肉、鶏肉、フォアグラに加え、鴨肉や鹿肉などを混ぜて作ったパテをパイ生地で包んで焼き上げたフランスの伝統的な料理だ。焼き上がったパイ上部に開けた煙突部からコンソメを流し入れることで、パテとパイ生地の隙間には琥珀色の層ができ、断面も美しい。一枚を分厚く切った後に縦に二つに切ることで、一人前の量としては通常と変わらないのだが、口に入れた時に感じられる肉肉しさ、食べ応えが増し、食後の満足度も高まる。タスマニア産粒マスタードの酸味がとても良く合う。
●赤ワイン カシス
器の窪みに、クレーム・ディプロマットで土台を作り、赤ワインのジュレ、ピスタチオのクレーム・シャンティ、フレッシュな女峰とフランボワーズを重ねていく。トップにレモンとヨーグルトのアイスクリームを乗せ、赤ワインのグラニテをかければ、色鮮やかでいて爽やかな吉崎シェフらしいデザートが完成する。味の根幹はレモンとヨーグルトのアイスクリームの甘酸っぱさ。そこにクリーム系の素材の持つ甘味やコク、さらにはいちごやフランボワーズの酸味が加わり、後味も非常に爽やかな一皿になる。
●本日のお肉料理
アイルランド産ヘアフォード牛のヒレ肉。雲丹とキャビアを乗せ、マデラソースを合わせる。付け合わせにはレンズ豆。grass-fed beefであるヘアフォード牛は、文字通り牧草だけで飼育された牛であり、その肉質は脂肪が少ない鮮紅色の赤身肉である。軟らかなヒレ肉は、噛み締めると赤身肉特有の甘味があり、十分な肉の旨味を感じることができる。一方で、食後感にしつこさがなく、すっきりとした後味が秀逸だ。年代や性別を問わず、万人受けするような上質な赤身肉だと感じた。
●大葉 ライム チェリー
爽やかなクレーム・オ・シトロンとチェリーのコンポートを盛り込み、アーモンドのキャラメリゼを散らしたら、その上に大葉とライムのソルベを乗せる。桃色のカシスの泡を添え、スライスしたいちごを飾れば、色鮮やかな一皿が完成する。レモンのツンとした酸味と大葉とライムの爽やかな酸味との間を、コクがあるチェリーの甘酸っぱさで繋ぐようなイメージ。
●パフェ
最後のグラン・デセールをパフェにアレンジしていただく。ピスタチオと甘夏、河内晩柑(美生柑)、デコポンの柑橘類を使った淡い色のパフェに、パッションフルーツでエキゾチックな雰囲気を加えた、初夏を感じる美しいパフェだ。パフェグラスの底から、ソーテルヌ(貴腐ワイン)のジュレ、杏とパッションフルーツのソースでマリネした柑橘、クレーム・ディプロマット、ピスタチオのクレーム・シャンティを重ねていく。パフェグラスの表面には杏とパッションフルーツのソースが鮮やかな橙色のグラデーションを作り出す。パフェ上部にはコクのある濃厚なピスタチオのアイスクリームが盛り込まれる。清涼感のあるオレンジとミントのグラニテをかけ、フレッシュな杏と柑橘、黄緑色のメレンゲを飾れば完成だ。コク深いピスタチオの味わいに対して、フレッシュな柑橘の甘酸っぱさとパッションフルーツの弾けるような香りと酸味が加わることで、味に緩急が生まれ、最後まで飽きることなくペロリと頂ける。合間にはミントの香りが鼻から抜けていき、非常に爽やかな味わいとなる。
●小菓子
パッションフルーツの生チョコレート。緊急事態宣言発令中につき、残りはテイクアウトで。
次回の訪問もとても楽しみだ。
2021/08/20 更新
2021/04 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年3月 桜のコースSP (貸切)
毎年3月下旬から4月上旬にかけて開催されるコースのテーマは「桜」だ。桜がテーマと言っても、すべてのお皿に食材として桜が使用されているわけではなく、随所に桜を連想させる芸術的表現(見た目や味わいなど)が用いられており、吉崎シェフの類稀なるセンスの良さを体感できるコースである。
個人的にはこの「桜」のコースが一年を通して最も好きなコースなのだが、メイン食材が決まっている他のコースと違い、最後まで何が出てくるかわからずワクワクできるから、というのがその理由なのかもしれない。
●アスパラガス 蟹 帆立
アスパラガスのブラン・マンジェにずわい蟹と帆立貝のマリネを合わせたお皿。今回はビーツとフランボワーズの紅色のソースをかけて頂く。主役を務めるアスパラガスのブラン・マンジェは濃厚な味わいで、青い香りがふわっと香る仕上がりに。マリネの柔らかい酸味、ソースの甘酸っぱさとの相性もとても良い。
●パテ・アン・クルート
SPコースの定番、パテ・アン・クルート。豚肉、鶏肉、フォアグラなどで作ったパテをパイ生地で包んで焼き上げたフランスの伝統的な料理だ。焼き上がったパイ上部に開けた煙突部からコンソメを流し入れることで、パテとパイ生地の隙間には琥珀色の層ができ、断面も美しい。一枚を分厚く切った後に縦に二つに切ることで、一人前の量としては通常と変わらないのだが、口に入れた時に感じられる肉肉しさ、食べ応えが増し、食後の満足度も高まる。切り方ひとつで感じ方もずいぶん変わるものだと勉強になった。
●柑橘
器の窪みにクレーム・ディプロマットで土台を作り、ピスタチオのクレーム・シャンティ、グレープフルーツのジュレ、さつき八朔を重ねる。こちらで頂ける和歌山県は藏光農園さんのさつき八朔は、通常の八朔とは異なり、3~4月まで収穫せずに樹上で完熟させたもので、酸味よりもはるかに甘味が強くなるのが特徴だ。さらにその上に、杏とパッションフルーツのソルベとグレープフルーツのグラニテを載せ、金柑を飾れば完成だ。甘味の後に吹き抜けていく柑橘類の酸味で、後味も非常に爽やかだ。酸味を巧みに操る吉崎シェフらしい一皿。
●新玉葱
新玉葱のポタージュと新玉葱のパウンドケーキという、こちらでは珍しい組み合わせ。玉葱の甘味だけが抽出されたかのようなポタージュは口当たりが良く、サラサラと入っていく。パウンドケーキは、ケーク・サレとは違い、強い甘味の後に、黒胡椒がフワッと香る新感覚の味わい。ポタージュに浸して頂いても、非常に美味しかった。
●お肉料理
アイルランド産ヘアフォード牛のヒレ肉。雲丹とキャビア、そして桜の葉の塩漬けを乗せ、マデラソースを合わせる。grass-fed beefであるヘアフォード牛は、文字通り牧草だけで飼育された牛であり、その肉質は脂肪が少ない鮮紅色の赤身肉である。軟らかなヒレ肉は、噛み締めると赤身肉特有の甘味があり、十分な肉の旨味を感じることができる。一方で、食後感にしつこさがなく、すっきりとした後味が秀逸だ。年代や性別を問わず、万人受けするような上質な赤身肉だと感じた。
●ショコラ トンカ チェリー
毎年楽しみにしている、吉崎シェフのセンス溢れる一皿。濃厚でコクのあるクレーム・オ・ショコラと爽やかな酸味のあるルバーブのペーストを盛り込んだところに、しばしば桜餅や杏仁豆腐の香りに形容されるトンカ豆のアイスクリームを重ねる。さらにチェリーのコンポートと桜の葉のクッキーを飾れば、季節感ある一皿が完成する。特筆すべきはクッキーだろう。桜の葉の裏面にだけうっすらとクッキー生地を纏わせ、桜の香りとサクサクの食感、そして何より見た目の美しさを楽しむものである。センス抜群の一皿を今年も堪能させていただいた。
●苺 大葉 ライム
最後のグラン・デセールをパフェにアレンジしていただく。いちごを主体とした鮮やかな赤色のパフェに桜の要素を盛り込んだ、この時期ならではの美しいパフェだ。赤ワインのジュレ、ルバーブのペースト、クレーム・ディプロマット、ピスタチオのクレーム・シャンティ、などの鉄板の食材に加え、パフェグラスの表面に鮮やかなグラデーションを作り出すフランボワーズのソースに心が躍る。いちごの酸味に寄り添うように、パフェには大葉とライムのソルベが盛り込まれる。鮮やかな桜色のグラニテをかけ、周りに桜花の形に型抜きしたホワイトチョコレートとフレッシュな女峰と白雪小町を飾れば完成だ。いちごやフランボワーズの甘酸っぱさの合間に、ライムと大葉の爽やかな香りが鼻から抜け、後味も非常にすっきりだ。食べ疲れさせない構成には、さすがの一言。
●小菓子
4月の「ピスタチオ」のコースもとても楽しみだ。
2021/08/18 更新
2021/03 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年3月 黒トリュフのコース
こちらのお店には、3月中旬に不定期で開催される、幻とでも言うべきコースがある。「黒トリュフ」のコースである。香りの良い黒トリュフが入荷した時にだけ開催されるイレギュラーなコースであり、毎年開催されるわけではないのだが、今年は2日間限定で開催されたコースへの参加が運良く叶った。
フランス、ペリゴール産の黒トリュフを削り始めると、店内にはむせ返るような芳香が立ち込める。その香りは筆舌に尽くしがたいが、強いて言うなら、森の中にいるときに感じる湿った大地のような香りだ。この黒トリュフのコースでは、罪深い味わいとでも言うべき極上のお皿ばかりが並ぶのだ。
●蛤
コースの初めは、蛤のお出汁から。まろやかな蛤の旨味だけが口中に広がっていく。優しい味わいのスープが身体に染み込んでいき、内側からじんわりと温めていく。内臓にも程良い刺激が加わり、身体が整っていくのがわかる。
●アスパラガス
透明のグラスの中には、萌黄色のアスパラガスのブラン・マンジェ、帆立貝とずわい蟹のマリネが盛り込まれている。程良い塩味のマリネもとても美味しいのだが、あくまで主役はアスパラガス。滑らかな質感のブラン・マンジェは、濃厚な味わいで、アスパラガスを丸ごと食べているような感覚に陥る。
●真鯛 生海苔
とうとう真鯛が出るようになったのか…というのが常連の皆様、共通の見解。しっとり、ふわふわに仕上がった真鯛。もちろん魚の臭みなどはまったくない。真鯛の下には生海苔のリゾットが敷かれ、上にはこれでもかと黒トリュフが削られている。芯が少しだけ残るように炊かれた米の食感がとても心地良く、鼻から抜ける海苔の香りも申し分ない。香りの方向性が似ているためか、海苔と黒トリュフの香りの相性がものすごく良かった。
●パテ・アン・クルート
豚肉、鶏肉、鴨肉、フォアグラなどで作ったパテをパイ生地で包んで焼き上げたフランスの伝統的な料理。焼き上がったパイ上部に開けた煙突部からコンソメを流し入れることで、パテとパイ生地の隙間には琥珀色の層ができ、断面も美しい。コース内容に合わせて、パテ・アン・クルートにもたっぷりの黒トリュフを削っていただいた。脂の少ない赤身肉を多く使用したという今回は、肉の旨味をしっかり感じることができる肉肉しい仕上がりとなっていた。
●大葉 苺 赤ワイン
吉崎シェフらしい一品。器の窪みに、クレーム・ディプロマットで土台を作り、赤ワインのジュレ、チェリーのコンポート、ピスタチオのクレーム・シャンティ、フレッシュな女峰と白雪小町を重ねていく。トップには大葉とライムのソルベを乗せ、シロップに漬けた白雪小町を乾燥させたチップを飾れば、色鮮やかで爽やかな味わいのデザートが完成する。甘味とコクが強いクリーム系の素材に、いちご、ライムなどの酸味と大葉の香りを併せることで、後味も非常に爽やかになる。
●門崎丑
岩手県のブランド和牛、いわて門崎丑(かんざきうし)のヒレ肉。分厚くカットされたヒレ肉は、低温調理により絶妙な火入れがなされ、美しいロゼ色に仕上がっている。ソースにはマデラソース、付け合わせにはレンズ豆、さらに肉の上には雲丹とキャビアが乗り、黒トリュフが削られる。ナイフに力を入れなくともスーッと切れる軟らかな肉質のヒレ肉は、肉の味も濃く、コクのあるまったりとしたマデラソースがよく合う。フワッと鼻から抜ける黒トリュフの芳香が肉の旨味に華を添える。
●ショコラ フルム・ダンベール
アヴァン・デセール。金色に輝く器に、クレーム・オ・ショコラが盛り込まれる。濃厚でコクがあるクレーム・オ・ショコラは、口に入れた時に広がる香りが良く、口溶けも滑らか。そこに、アーモンドのキャラメリゼと女峰のコンポート、さらに「高貴なブルーチーズ」と称されるフルム・ダンベールのアイスクリームを乗せ、上からたっぷりの黒トリュフを削れば、濃厚な大人のデセールが完成する。口に含んだ瞬間、香りの爆発とともに濃厚な味わいが怒濤のごとく押し寄せてくる。この背徳の味わいにどっぷりと浸かってしまうと、身体が得も言われぬ多幸感に支配されていくのがわかる。
●トリュフ
グラン・デセール。クレーム・ディプロマットとアーモンドのキャラメリゼで土台を作り、その上に黒トリュフが大量に入ったバニラアイスクリームを乗せる。このアイスクリームがグラン・デセールの主役だ。フィユタージュ・アンヴェルセ(逆折込み)のパイと杏を盛り込み、上からたっぷりの黒トリュフを削る。この特濃アイスクリームが悶絶級に美味い。まるで黒トリュフを丸ごと口に入れたかと思うほどの強烈な芳香が鼻から抜け、とろけるような甘味がじわじわと広がって行く。ザクザクした食感のパイ生地をアイスクリームに浸しながら食べても最高に美味い。
●小菓子
小菓子の中には久しぶりのカヌレ。蜜蠟でコーティングされた生地は、外側がカリカリ、内側はむっちりとしており、ふわっと鼻から抜ける蜜の甘い香りがクセになる味わい。
やはりこちらは、私にとって不可欠なお店である。次回の訪問も楽しみだ。
2021/08/18 更新
2021/03 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年2月 いちごとピスタチオのコースSP (貸切)
毎年2月下旬から3月上旬にかけて開催されるコースのテーマは「いちごとピスタチオ」だ。吉崎シェフがこだわったという京都府亀岡市の雫の里農園さんから取り寄せた瑞々しい女峰と、こちらのお店の代名詞と言っても過言ではない濃厚でコクのあるピスタチオのクレーム・シャンティを使ったデザートが楽しめるコース内容になっている。
常連客の要望に応じて、どんどん濃厚さを増していったというピスタチオのクレーム・シャンティは、滑らかさが失われないギリギリまでピスタチオが含まれており、その香りの良さとコクのある味わいは筆舌に尽くしがたく、他の追随を許さない。
●ビーツ ブッラータ
ずわい蟹と帆立貝のマリネに、フレッシュチーズであるブッラータを加えたさっぱりとした一皿。上にはビーツとフランボワーズの紅色のソースをかけて、彩も鮮やかに。マリネの柔らかい酸味とソースの甘酸っぱさとの相性もとても良い。
●パテ・アン・クルート
SPコースの定番ともいえるパテ・アン・クルート。豚肉、鶏肉、フォアグラなどで作ったパテをパイ生地で包んで焼き上げたフランスの伝統的な料理だ。焼き上がったパイ上部に開けた煙突部からコンソメを流し入れることで、パテとパイ生地の隙間には琥珀色の層ができ、断面も美しい。鴨肉を多めに入れたという今回は、肉と脂が良い塩梅で混ざり合い、バランスの良さを感じた。数年前から吉崎シェフが試作に試作を重ねたというだけあり、有名フランス料理店のそれには勝るとも劣らない素晴らしい味わいに仕上がっている。
●ミルク 苺
一言で表現するなら、おとなのいちごミルク。ミルクババロアの土台の上に、女峰だけを煮詰めて作ったといういちごのコンポートとソースを回しかける。さらに濃厚で野性味溢れるタヒチ産バニラを使ったアイスクリームを乗せ、シロップに浸けたいちごを乾燥させた鮮やかなチップを飾れば完成だ。ミルクといちごという鉄板の組み合わせに、コクの強いバニラのアイスクリームを合わせることで、味や香りに奥行きが加わり、まるでおとなだけに許されたような背徳的な味わいとなる。この「ただ美味しい」だけで終わらせないところが、吉崎シェフの凄さである。
●サツマイモ
糖度が高い薩摩芋として知られるシルクスイートを使用したポタージュ。口に含んだ瞬間から薩摩芋の甘い香りが鼻から抜けて行く。丁寧に裏漉しされており、口当たりが良く非常に滑らかなのだが、ねっとりとした焼き芋特有の余韻が残るほど濃厚である。具材として海老が入る。
●和牛 シンシン
岩手県のブランド和牛、いわて門崎丑(かんざきうし)のシンシン(内腿)をローストビーフに。絶妙な火入れで美しい桃色を呈した牛肉は官能的な仕上がりだ。ソースにはマデラソース、付け合わせにはレンズ豆、さらに肉の上には粒の大きな紫雲丹が乗る。質感が程良く残り、肉の味が濃いローストビーフには、甘味とコクが強いマデラソースがよく合う。口の中でとろけていく紫雲丹の甘いジュースが、軟らかなローストビーフと得も言われぬ調和を見せる。
●ショコラ 苺
金色に輝く器に、クレーム・オ・ショコラが盛り込まれる。濃厚でコクがあるクレーム・オ・ショコラは、口に入れた時に広がる香りが良く、口溶けも滑らか。これ単体で頂いても非常に美味しい。そこに、カシスのソースでマリネしたフレッシュな女峰と味わい深いピスタチオのアイスクリームが加わる。さらに上にはフィユタージュ・アンヴェルセ(逆折込み)のパイが乗る。ザクザクとした食感が非常に心地良いパイだ。味の濃淡の使い方が非常に上手だと感じた一皿。
●パフェ
吉崎シェフの春のスペシャリテであるピスタチオとグレープフルーツのデセールをパフェにアレンジしていただく。いちごを主体とした鮮やかな赤色のパフェも魅力的だが、ピスタチオとグレープフルーツを使った淡い色のパフェも実に上品で美しい。パフェグラスを彩る緑色と黄色のグラデーションは、春らしい清楚な雰囲気を運んでくる。パフェのトップを飾るのは長野県産白いちご「白雪小町」だ。瑞々しいその果実は、齧るとまるで洋梨のような芳醇な香りが感じられ、赤いいちごとは一線を画した味わいである。一緒に盛り込まれたグレープフルーツのキレのある酸味と、杏とパッションフルーツのソルベとソースの弾けるような香りと酸味が味に奥行きを与え、濃厚でコクのあるピスタチオのクレーム・シャンティとの相性も抜群だ。パフェグラスの底にはグレープフルーツのジュレが敷かれ、後味もすっきり頂ける。個人的殿堂入りを果たしている、唯一無二のパフェである。
●小菓子
今月のコースは、隙のない完成度を誇る、100点満点の内容だと感じた。
3月の「桜」のコースもとても楽しみだ。
2021/08/18 更新
2021/01 訪問
個人的スイーツ殿堂入りの名店
2021年1月 いちごとショコラのコース
毎年1月下旬から2月上旬にかけて開催されるコースのテーマは「いちごとショコラ」だ。吉崎シェフがこだわったという京都府亀岡市の雫の里農園さんから取り寄せた瑞々しい女峰と、濃厚でコクのあるショコラを使ったデザートが楽しめるコース内容になっている。
女峰と言えば、かつては「東の女峰、西のとよのか」と呼ばれるほど主力品種であったものの、現在ではいちごの国内生産量のわずか1%という希少品種になってしまった。目にすることが少なくなってしまった女峰だが、こちらで頂ける女峰は甘味と酸味のバランスを兼ね備えた非常に美味しいいちごである。
●タルト
ベシャメル 海老ソース 黒トリュフ
サクサクに焼き上げられたタルト生地の上に滑らかなベシャメルソース。これだけでも十分に美味しいのだが、海老を煮詰めた濃厚なソースと香り豊かな黒トリュフをふんだんに削っていただく。クラシックなフランス料理を思わせるパンチのある味わいだ。
●苺 大葉 赤ワイン
苺 大葉ソルベ 赤ワインジュレ グラニテ
器の窪みに、クレーム・ディプロマットで土台を作り、赤ワインのジュレ、ルバーブのペースト、ピスタチオのクレーム・シャンティ、フレッシュな女峰を重ねていく。トップには大葉とライムのソルベを乗せ、色鮮やかでいて爽やかな吉崎シェフらしいデザートが完成する。甘味とコクが強いクリーム系の素材に、いちご、ルバーブなどの酸味と大葉の香りを併せることで、後味も非常に爽やかになる。一品目との緩急が非常に見事だ。
●ショコラ 苺
クレープショコラ 苺のソース バニラアイス
鍋から香る甘酸っぱいいちごの香りに店内が包まれていく。デザート完成前からテンションが上がる。濃厚なショコラのクレープ生地に、さらに濃厚なタヒチ産バニラのアイスクリームが乗る。タヒチ産のバニラは、マダガスカル産よりも鞘が太く、バニラとは思えないような野性味ある濃厚なコクと香りが特徴だ。近年、流通量が激減し、まったく目にすることがなかったのだが、徐々にではあるが流通量が増えつつあるという。最後に、上から甘酸っぱいいちごのソースをかければ完成だ。むせかえるような濃密なバニラに身体が侵食されていくような感覚を味わいつつ、いちごの酸味で後味はさっぱり。
●蕪
蕪のポタージュ
温かな蕪のポタージュは、ほんのり甘味があり、舌触りも滑らか。具材として鶏肉が入る。最後に散らした黒胡椒の香りと辛味が良いアクセントになっている。
●和牛
和牛頬肉の煮込み
じっくり煮込まれた牛頬肉は、スプーンを当てるだけで繊維に沿ってホロホロと崩れるくらい軟らかだ。赤ワインソースが頬肉の繊維に入り込み、コクのある味わいに仕上がっている。頬肉の下には生海苔のリゾットが敷かれ、添えられた粒マスタードと一緒に頂くことで風味と辛味のアクセントが追加され、最後まで飽きずに楽しむことができる。お菓子屋さんで肉料理を頂くとは…すごい時代になったものだといつも思う。
●ショコラ
クレームショコラ ジャスミン茶アイス
濃厚なクレーム・オ・ショコラと甘い香りのジャスミン茶のアイスクリームを併せ、食感のアクセントにアーモンドのキャラメリゼを散らしたシンプルな一皿。フレッシュのいちご、杏のコンポート、炊いた黒豆を乗せ、彩りも鮮やか。香り豊かなジャスミン茶のアイスクリームが、ショコラに負けない存在感を放っており、口の中で見せる香りの調和は見事の一言。
●苺 フロマージュブラン
苺 ジュレ フロマージュブランアイス クリーム
クレーム・ディプロマットとクレーム・ダンジュを下地に、フロマージュ・ブランと柚子のアイスクリーム、いちごと柚子のグラニテなどを重ねていく。フレッシュないちごにはフランボワーズのソースを合わせ、シロップに浸けたいちごを乾燥させた鮮やかなチップを飾る。コクのあるフロマージュ・ブランには、いちご、柚子、フランボワーズの柔らかな酸味を合わせ、軽やかな食後感でコースを締め括ることができる。コースの組み立て方も実に上手だと感じる。
●小菓子
2月の「いちごとピスタチオ」のコースもとても楽しみだ。
2021/08/18 更新
東急大井町線等々力駅から徒歩18分という立地にありながら、無類のスイーツ好き達がこぞって足を運ぶ有名店「デセール・ル・コントワール」。店名の dessert le comptoir はカウンターデザートを表すフランス語であり、その名のとおりカウンターに座り、デザートが目の前で作られていくライブ感を堪能しながら、出来立てのデザートを味わうことができる。
このお店最大の魅力は、お店を切り盛りするオーナーパティシエの吉崎大助シェフのトークだ。お店の売りは「Talk and Sweets」(Sweets and Talkではない)。カウンターに着席したその時から吉崎劇場の幕が開く。お客ひとりひとりの様子を窺い、誰も飽きさせないようにする話術は実に見事だと言う他ない。
そうは言っても、吉崎シェフが作るデザートは本当に美味しい。特に巧みだと思うのは酸味の使い方である。何層にも重ねられた甘味の中には程良い酸味が加えられており、デザートに爽やかな風味や引き締まった味わいが追加されるのだ。それにより、どんなお皿も最後まで気持ち良く頂くことができる。これほどまでに「食べさせる」ことが上手なプロフェッショナルを私は他に知らない。
現在は、1月から10月まで、月毎にテーマが変わるデザートコースと年に3~4回のパフェ会をメインに営業されている(11月、12月はクリスマスの仕込みのため通常営業はお休み)。新規のお客は受けていないようなので、フラッと行くには狭き門なのだが、訪問の機会に恵まれたなら、是非とも足を運んでみていただきたい。
2022/03/09 更新