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うな重
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うな重
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ほたるイカ
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鳳陽 純米吟醸
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白焼き
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白焼き
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砂肝とヒレ
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先の先
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手羽先と大根
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つくね
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短冊
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ヒレ
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肝
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お新香
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先付け
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お酒のメニュー
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店構え
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「お待たせしちゃったでしょ。ごめんなさいね。」
12月1日、9:30。予約のリダイアル攻勢開始。通話中またはNTTの音声案内を聞くこと約300回。10:15、ついに電話がつながりました! 電話の向こう側では、電話がつながりにくかったこと、そしてすでにかなり席が埋まってしまっていることを侘びながら、大将が丁寧に対応して下さいます。少ない候補日の中から、手帳とにらみあいながら日時を決定しました。席、確保! 憧れの「活鰻の店 つぐみ庵」に初訪問、やった!
「どうしても、1組しか無理なんですよ。」と大将。
師走吉日。街の灯りがだんだん遠ざかり、住宅街へ入って行きます。路地をのぞくと小さな看板。お店の前にすでに大将がお出迎えに出られていました。お世話になります、よろしくお願いします。
どうやら今夜の客は我らが1組だけ。貸し切り! 厨房をのぞむカウンターに座り、お母さんと大将に挨拶をして、今宵の贅沢な夜会が始まります。実は大将と女将さんのおもてなしはすでに昨日から始まっていたそうで、それが会話の中からわかってきたのです。こんな私のために…半泣。
ビールは「赤星」のみ。小さなグラスはキンキンに凍っています。まずこれが素晴らしい。
「私がルビを間違えちゃったのよ…笑」と女将さん。
アルコールの種類は少ないと女将さんからご説明いただきました。大丈夫ですビールと日本酒があれば。提供する日本酒は、宮城県の内ヶ崎酒造店「鳳陽 純米吟醸」だけです。地元でもほとんど知られていないお酒だそうです。このお酒を紹介する、店内唯一の貼り紙で「鳳陽(ほうよう)」を「ほおよう」とルビをふってしまった女将さん。「お」をグシャグシャと消して横に「う」と書いてしまう、その可愛いリカバリーにほっこりします。
このお酒、万能ですね。肉にも魚にも新香にも野菜にも、何にでも合います。それだけ包容力がある、ふくらみのあるお酒です。
焼鳥の幕
・ヒレ
・砂肝
・先の先
・手羽先と大根
・つくね(2本)
うなぎの幕
・肝
・ヒレ
・短冊串焼き
・お新香
・白焼き
・うな重
「こんな小さなお店に、遠くから皆さんに来ていただいてありがたいねえ。」と大将。
お客さんにはフレンチシェフやイタリアンシェフ、また同業者の鰻屋さんも多いそうです。私が思うに、大将の腕だけでなくホスピタリティなどいろいろなことを学びに来るのだと思います。または純粋に美味しい料理を楽しみに来ています。どうしてこんなに美味しいのでしょうか。それは徹底的な基礎基本の繰り返しなんだと、そこを感じとって店を後にすることでしょう。鶏に対するリスペクト、うなぎに対するリスペクト、そして客人に対するリスペクト。料理は腕自慢ではなく感謝なんだと。
九州の離島から、キャンセル空きを常に狙って来るお客さんもいるそうです。「申し訳ないねえ。ありがたいねえ。」と大将。
「何かありましたらすぐに言って下さいね。」と女将さん。
このお店のキモは、女将さんの温かさです。雰囲気の半分以上は女将さんの穏やかな温かいおもてなしが作っています。ご主人の横で焼き台をゆっくりと団扇で仰ぐ姿。器が綺麗かどうかきちんと確認する仕草…。不躾な質問や注文にも笑顔で対応して下さいます。
「ネットの力はすごいねえ…」と大将。
とはいえ大将が柱である事は間違いありません。屋号「つぐみ庵」を継いだ大将ですが、もともと先代が鳥の「つぐみ」を焼いて提供しているお店でした。50年ほど前、鳥の「つぐみ」が提供できなくなり、しょうがなく鰻を焼き始めたそうです。現大将は23年前に田端からこちらへ移転…というよりご自宅を改装して、再出発しました。この時のエピソードもかなり面白かったです。まさかこんなにお客さんが付いてくれるとは、大将も、そして関係銀行も考えなかったそうです笑。最近の情報加速社会の中で「つぐみ庵」が全国から注目されることになる想定外の事象について「ネットの力はすごいねえ…」と大将。
鳥の「つぐみ」は現在は環境庁の厳重な監視下にあり、もし提供しようものなら罰金○百万だそうです。そのリスクを追ってまでヤミ提供する気はないそうです笑。
「あのね、旨味とハリが違うんだよ、寝かすと。」と大将。
大将と女将さんがしばらく私たちに背中を向けて、ていねいに鰻の骨を抜くシーンがハイライトです。このシーンになんだか涙が出てきます。うなぎの高騰に大将も嘆いていますが、お客さんにとってその高嶺の花であるうなぎの骨を、丁寧に、愛情を込めて、黙って、一本一本、骨を抜く。
うなぎは愛知県奥三河産だそうです。うなぎはすでに昨日ひらいていて、一日寝かせたそうです。「もちろん新鮮さはその場でさばいた方があるんだけどね。あのね、旨味とハリが違うんだよ、寝かすと。」と大将。もちろん前日にひらけば全ていいわけではありません。そこは企業秘密です。いえ、少し話して下さいましたが笑。
「お米もこだわってるんですよ。これぐらいの量でいいですか?」と女将さん。
お米は山梨産のコシヒカリ。以前は佐渡産のお米だったそうですがワケあって変えざるをえなかったのです。しかしこの山梨産が、すごく美味いしいのです。水分が多いわけではないのに柔らかく、しかもハリがある。甘過ぎないのでうなぎにもタレにも相性がいい。
そして、お米も昨日から洗って水分につけていたそうです。我らが到着する30分前に余分な水気を落とし、顔を見てから、あるいは食べっぷりを見ながら、炊き具合を調整してるそうです。
「皮が違うでしょ。有名店だってこうはいかないんですよ。」と大将。
鰻ですが、皮が違う。柔らかい。ほとんど焦げはありません。うなぎのナマの肌合いのままですが、ところがしっかり火は通っているんです。身がホクホクなのはもちろんのこと、皮がホクホクなんて聞いた事がありませんよ。
白焼き。傍らに大将が挽いてくれた山椒。そして最後にパラパラと散らせた塩。絶品。これは絶品。こんなに舌と心に沁みる優しい白焼きは初めてです。食べてしまうのが本当にもったいない。この出会いは衝撃です。
うな重。ご飯少なめでいただきました。ホクホクのご飯にホクホクのうなぎ。甘さ控えめのタレと甘みのあるご飯。タレは先代から伝えられた秘伝のタレだそうです。
小骨一本無いうなぎ。先ほど目の前で蒸かされていた、そして焼き台でお二人で扇いで焼いていたうなぎ。そのうなぎが今、舌の上にあります。蟹を食べている時以上に、何も考えずに静かにうな重を食べている自分。
間違いなく自分史上最高峰のうな重です。女将さんはすでに厨房からは姿を消し、大将はやり切ったドヤ顔で酒を飲み始めています。美しい。実に美しい光景。今宵はもう暖簾を仕舞うのですね。
「電話も店に来るのも大変でしょ、だからそんな…。ありがとね。」と大将と女将さん。
ホスピタリティ・技・味・雰囲気・廉価のバランスにおいてこれ以上のお店はないかと思われます。そう直接的には言いませんでしたが、チャンスがあるならまた食べに来たいとの私の思いを素直に伝えました。お二人としては、おそらくリピーターで占領されることは望んでおらず、なるべく多くの方にこの焼き鳥とうなぎを提供したいのだと感じました。それでも、またいつか訪れたいと心底思うのです。
寒いのに外まで出てお見送りして下さる大将と女将さん。余韻まで素晴らしい、駒込の名店「つぐみ庵」。またいつか、お二人で骨を抜く背中を拝みにきます。ごちそうさまでした。
「さんまの100倍だよ。今、ポカポカでしょ。」
寝床に入って目をとじた時、大将の言葉を思い出しました。手足の指先までポカポカ、というよりカッカして、寝付けません。うなぎの、肝、ヒレ、皮と身。この順番に意味があったそうです。DHAを効率的に消化させるそうです。DHAの量はさんまの100倍といわれているそうです。最初の肝が効いていて、血液の循環が活性化して体中ポカポカなんです。うなぎを食べて精をつける、とはこのことだったんですね。実感しました。ですが寝ます笑。心も身体もあたたかいままに。