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正月の京都を楽しんでみたいと以前から思っていた事を遂に実現。雑誌、ネット情報を調べて、宿泊ホテル近辺での夕食の店を予約したのだが1食、気分を変えてフレンチにしようと考えて選んだのがこの店。
辿り着くとビル1Fの奥まった場所。扉を開けると店内はシンプルインテリアのモダンな造り。我々は夜の1組目。
メニューは予約時点でお勧めコースのみと聞いていたので気楽なものである。テーブルの上にオシャレなスタンドが置かれていて、そこに“today’s special menu”が掲げられている。残念ながら高齢者には小さ過ぎる文字なのが残念。
・卵黄 猪 白葱
・帆立貝 カリフラワー
・蟹 根セロリ
・牛頬肉 人参 小玉葱
・hidamarinoバケット
・雲子 ジャガイモ トリュフ
・薩摩芋 フォアグラ 林檎
・ヒラスズキ 法蓮草 牡蠣
・蝦夷鹿 ビーツ アンティーブ
・イチゴ ビスタチオ
・コーヒー カヌレ
と言う11品のラインアップで11,000円と言う信じられないプライス。但し、この店のルールは飲み物1品は必須、残念ながらアルーコールが全くダメと言う残念な我々はいつも通りガス入りのミネラルウォーターをルールに従って1本づつ注文。
驚いた事にこの店はご主人が全てお一人で回している。心の中で大丈夫かなと思ったがコースが始まるとそんな事は杞憂、最初の一品から料理の素晴らしさに打ちのめされると共に、サービスもしっかりしていて(途中で2組になったがスムーズ)料理の世界に没頭出来た。
結論から述べると、全ての料理、パンに至るまで隙がなく、ひと工夫されたものでメイン3品と言う構成も素材と味の変化で飽きさせず、ただただ素晴らしいの一言に尽きる。決して盛り付けに過剰な事はせず、しかしシンプルな中に見た目の華やかさは失わないためシンプルで美しい皿、食べると美味しくて、しかし決してバター、クリームで構成されたソースの様なものではなく、野菜など素材を活かしたソースが見事な火入れで調理され素材自体で十分美味しい料理がソースで一段上の美味しさに昇華されると言う事が繰り返されるのだ。
また、メイン3品となると一皿のボリュームも工夫が必要となるが、素材が「小さめ」と「小さい」は全く意味が異なる。例えば素材が薄くなると微妙な火の通し方が分かりにくくなる。魚にしろ肉にしろポアレによる絶妙の火加減、分厚い断面にナイフを入れた時の中心部のレア又はミディアムレアの状態を味わう醍醐味は快感以外の何者でも無い。
いくつか料理を紹介すると、1品目の「卵黄 猪 白葱」上部をカットされた卵の殻の中に料理が入っていて、殻を破らない様にかき混ぜて食べる料理。
卵の黄身を温めれば美味しくなる事は知っているが、猪肉がシチューの様に煮込まれており仄かな甘みも感じる肉自体の味と温められて活性化した卵黄の旨み、アクセントの白葱でコースを考えたら適量とは言えこんな少ないボリュームでは物足りないと思わせる。
2 、3品目の「帆立貝 カリフラワー」「蟹 根セロリ」は今にして思うとサッパリした口直し的な位置付けになるのだが素材を活かした味付けと食感の組み合わせが絶妙。
4品目の「牛頬肉 人参 小玉葱」は定番料理とは言えいきなりフルコースで味付けがしっかりしたシチュー?と思って頂いたが、とにかく美味しいので文句なし。
ここで「hidamarinoバケット」が出てくるのだが、一般的なパンの出し方(パンとバター、オリーブオイルの様な出し方)とは異なり、ソフトタイプバケットとヘタ付きのミニトマト、ニンニク、塩、オリーブオイルがセットされたトレイと言うか皿が出される。説明があり、パンにニンニクをこすりつけた後更にトマトの肉質をこすりつけ、好みで塩(岩塩)、オリーブオイルを足して食べると言う趣向。何ととまとの先端がカットされていると共に温められている。まず1つパンを取って指示通りニンニクとトマトをこすりつけて食べると美味くてびっくり。2つ目は更に塩とオリーブオイルを加えると一層美味しくなる。こうなるとパンも一つの料理で5品目。
6品目の「雲子 ジャガイモ トリュフ」と共にパンを食べていたのだが、残ったトマトは食べる様にと言われて認識した事はトマトが温かいうちに食べないと、と言う事。かろうじてセーフ。
雲子(くもこ)とはマダラの白子。これに黒トリュフが組み合わされているのだが、あくまで私個人の意見ではあるが黒トリュフの香りが立っていないので別の工夫を期待。
7品目の「薩摩芋 フォアグラ 林檎」。フォアグラに林檎と言う組み合わせが新鮮。味の組み合わせが良い。ここに薩摩芋が加わってスープ仕立ての様になった非常に凝った料理。これは抜群に美味しい。
8品目の「五島列島のヒラスズキ 法蓮草 牡蠣」。ヒラスズキは、『200万年以上も前にスズキと共通の祖先から枝分かれして、高塩分域に棲めるように進化した魚で、スズキには川魚のような匂いがあるが、ヒラスズキには皆無。身質も異なり、とくに刺身は抜群においしい。』と言う初めて食べる魚。
ポワレされた肉厚の切り身、牡蠣と法蓮草、そして野菜ベースのオレンジ色に近いソース。白い皿に三角に盛られただけなのだが見た目もシンプルで美しい。ヒラスズキにナイフを入れまずソースを付けずに口に入れてビックリ。まず味が素晴らしい上に肉厚の中心部付近の食感と感じられる更なる旨みに圧倒されるのだ。大袈裟では無く「何だこれは」と叫びたくなる。2切れ目以降はソースを付けて頂いたがソースは独りよがりの主張はせず、ヒラスズキの味を一段上に引き上げる様に考えられている。「美味しい」はナイフを入れる時の感覚から始まり、しっとりとした身を噛み締める時、絶妙の火加減の為せる技の素晴らしさなのだと感じて倍増する。
9品目の「蝦夷鹿 ビーツ アンティーブ」。前の皿と同じ白い皿なのだが今度は私には襖絵を彷彿させる盛り付けの妙。ローストされた鹿肉の断面は上にされ熱を加えたアンティーブ(チコリー)の上に乗せられている。濃い焦げ茶色のデミグラスソース、対角に流れる様にビーツのソース、赤茶色の落ち着いた色が美しい。鹿肉は何回か食べた事があるが、正直なところ大好きな肉質ではなかったが、今回の肉で考え方を改めた。
ナイフを入れて一口食べた時の驚き、牛肉とも豚肉とも全く異なる旨さが口の中に広がるのだ。羊肉とも異なる。鶏とも全く異なる肉質。柔らかすぎないしっかりとした肉質で、厚みのある肉にナイフを入れる時は快感すら覚える。この快感はヒラスズキの時と通じるものがある。
肉には噛み心地があると思う。うまく説明出来ないのだが、この鹿肉は牛肉のレア部分の様なネットリした感覚は無い。しかし決してウェルダンの肉質を噛む感覚では無い。これも火の入れ加減の技かとも思ったが、たまりかねて、ご主人にたまらなく美味しいことを伝え、どの様な調理をしているのか質問。「低温調理」の様な答えが返ってくると思っていたら、「強いて言えば熟成」と言う回答。私はそれでも調理法であると信じているのだが、美味しい料理の奥底の深さの興味が尽きない。
デザートはカヌレが印象的。そしてコーヒーがフレンチにありがちな深煎りに依存したタイプでなく、上質な豆でドリップしていると感じる私好みであることも嬉しい。
最後に普通パンは品数に入れないが、今回はパンも立派な一品。11品でスパーリングウォーター含めて11,800円と言う信じられないプライス。既に食べログで高得点を獲得しているが、私はこの様な「低い」点では無いと主張したい。