2回
2017/07 訪問
世界三大珍味の2つを味わい、5感に訴える素晴らしい和洋折衷フレンチを堪能した
前回訪問してからかなり時間が空いてしまった。おそらく15年程。その間、株式上場は果たす、箱根にホテルまで出してしまう程企業として発展。
実はTVで箱根のホテルが取り上げられたのを見て、行く気になった。
今回の訪問は祝日。
予約の時点で、単純なフレンチメニューでは無く、和洋折衷的なメニュー構成で、8品20,000円か12品30,000円のどちらかを選択と聞いていた。私達はそんなに大食漢では無いので、8品を選択。
メニューは以下の通り。
・プチデニッシュ
・ボタン海老とベルーガキャビアをキュウリのソースで
・鱧の碗
・鮑とトマトと長野県産の有機夏野菜
・ノドクロ
・ジュンサイ
・オマール・ブルトン
・夏鹿(本州)、オーストラリア産黒トリュフ、高原野菜(長野県産)
・桃のデザート
・ミニャルディーズとアンフュージョン
プチデニッシュを食べた後、トレイに盛った調理前の素材(オマール海老、鱧、オーストラリア産の黒トリュフ(冬採れるので)、長野県産夏野菜)をテーブルに持ってきて、説明してくれる。コースにはベルーガ(Beluga、オオチョウザメ)キャビア(=最高級)も出ると分かる。
いよいよ世界三大珍味のフォアグラを除く饗宴が始まる。
余り待たされ無いうちに1皿目のボタン海老とキャビアの皿が登場。緑色のソースは冷たいキュウリとの事。ボタン海老は寿司屋でも食べた事があるがキャビアは、事実上生まれて初めて。特にキャビアは思ったよりタップリで感動もので、ユックリ、ユックリ味わう。次にボタン海老と、次にキュウリのソースを絡めて。ソースを絡めると想像を超える味である。キャビアに触れない訳にはいかないが、正直、単体では、フ〜ンという感じで、ボタン海老と合わせたもの、更にキュウリのソースをタップリ絡めた味は悪く無い。
2皿目は鱧の碗で、これは完全に和食。鱧はフレンチレストランである事を忘れさす。もちろん、箸が準備されている。
3皿目は鮑とトマト。私は鮑の刺身位しか食べた事がない。硬くて余り好きではない。噂では柔らかく料理すると味が素晴らしいとは聞いていた。説明でトマトも特別なもので、普通食べる事ができない品種とか。どうやって食べようかと悩みながら、まず、鮑。バター系の味が舌に広がり、ビックリするくらいの弾力で鮑を噛む事ができる。「柔らかい」とは異なる。刺身の時は磯の香りが立ち過ぎ味も何も感じなかったが、この料理は旨味が溢れ出てくる様な感じで、感動的食感と併せて、本当に幸せ。トマトは酸味と甘味のバランスを楽しめと言われた通りの味。カッティングされた夏野菜と組み合わせてりしながら、あっという間に完食。
4皿目はノドクロ。言わずと知れた加賀高級魚だが、これも食べた事がない。これってメイン?何でパンが出ないのだろう?でも、オマールエビと鹿肉があるし・・などと思いながら、スッキリしているが複雑な味付けの適度な肉質の切り身とタップリとまぶされたつけあわせの生野菜、コーンをサラダ感覚で頂く。不思議な食感のキノコも付いていた。
5皿目はジュンサイ。これはおそらく口直し。柔らかいお酢の味が良い。
ここで自家製のパンとバター(聞き違いでなければ無塩バターと説明した様な気がする)。
このパンが旨い。普段パンにマーガリン、バターは一切つけないが、このバターをパンにつけると、素晴らしい。
6皿目はオマールエビ。この皿は出てくる時から存在感がある。真ん中にそびえ立つとんがり帽子。そして、テーブルにセットされて目につく2つの小さな椎茸の様な小ぢんまりした塊。説明を聞くと、オマールにつけて食べるとの事。
オマールは輪切りで2切れ。殻付きだが、フォークとナイフで切らなくても、スッポリ身が抜け出てくる。まず、そのまま一切れ口に入れると、プリプリで旨味がジュワッと。
それではという事で小ぢんまりした塊をおまにまぶそうとして、突っついてみると、意外な程シッカリと膜で覆われている。そのまますくい上げて、オマールの切り身に乗せてフォークで膜を破ると、静かにジュレの様なソースが身に広がる。そのまま口に入れると美味いの何の!明らかにこのジュレの様なものと一緒に食べた方が美味しい。
手で食べたとんがり帽子、ネギをライスペーパーで包んでいると思われる温野菜も良い。
7皿目は夏鹿と黒トリュフ。これは皿から一味違う。大きな皿上面の段差は何だ?と思いつつ、整然かつメルヘンチック(表現が難しいので写真参照)な盛り付けを綺麗だなと思いながら黒トリュフを探すと、ありました!スライスでは無く塊で!!
改めて皿を俯瞰で眺めると筒状の夏鹿の美しい3つのレアの断面、その上にジュレソースがバッテン(「×」)で乗っていて、その前には前衛の様にマスタード(的なもの)の黄色が配置される。
黒トリュフを森の様に守る色取り取りの夏野菜。
目にも鮮やかな彩りが食欲をそそる。
丁寧に鹿肉にナイフを入れると、適度な感触で切れて行く。まずそのまま、バッテンのジュレと、前衛のマスタード?と。この店の皿は主役の素材を味の組み合わせで、更に楽しむ事ができる様に工夫を凝らしている様に感じる。
いよいよ黒トリュフ。心して味わう。香りが立ち、味わいもシッカリしている。これが黒トリュフかと生まれて初めて認識。忘れない様に脳に刻みつけた。
デザートは丸ごと1個の桃が敷き詰められたクラッシュアイスの上に乗せられた皿。
食べ終わると、ミニャルディーズとアンフュージョン。コーヒーか紅茶の飲み物オーダーを取らないので変だなと思っているうちに、煎茶の様な形式でハーブティーが出される。
5人でテーブルを囲んだが、サービスは3、4人で隙がない。サービス料金に恥じない完璧なもの。
上質で工夫が凝らされた料理。今回は今迄、食べた事もないキャビア、黒トリュフも堪能。帰りの車まで丁寧に見送って貰えた隙のないサービス。
30年以上前になるか、西麻布の裏通りの小さなフレンチレストランが大きく発展。今回は私にとって特別な食事会だったが、心の底から堪能し楽しむ事が出来た。
2017/07/19 更新
2年ぶりの訪問。
この店のフレンチは私にとっては鉄板中の鉄板。グループのポールボキューズもあるが、「伝統」から一歩先を見据えて、「和」を取り込んだ日本が世界に発信しているようなフルコースメニュー構成が大好きである。
もちろん事前に予約、お任せコースは小市民的に真ん中の価格の2万円(サービス料、税別)、実際には24,600円となるが、滅多に来ない訳だし、しっかりとフレンチを楽しみたい時に、中途半端なものを食べるより、幸せ感がまるで違うのだ。
少し解説しておくと、予約は30分単位に数組受け付けている様だ。初めての方向けに更に解説すると、食前酒、食前酒ノンアルコールカクテル(私は酒がダメで魅力的なメニューを紹介してくれる)、食中のワイン、食後のチーズ(ワゴンで運ばれて来るチーズの陳列と種類には圧倒される)は全て別料金。
メインダイニングは3F。窓から道路に面した街路樹が見事にライトアップされ、「夜の緑」が美しい。この店の屋上から許可を取った上でライトを当てているそうだ。
テーブルには春を感じる手弱女(たおやめ)桜が可愛い磁器の花瓶に飾られている。
今回は壁際の貴族のソファーの様な席。この店のスタッフの教育は一言で言えば全員超一流。教育が凄いのであろう。兎に角、コースが始まる前から気持ちが良い。
メニューは最後に渡される趣向だが、一品一品丁寧に説明される。もっともこちらの頭が耄碌していて、聞く端から忘れていくので、食べながら「年て言ってたっけ?」で会話が弾むのも楽しい。
この日のメニューは以下の通りである。
▪️アヴァン・アミューズ
・チーズの温かいプチパイ2個
▪️フォアグラ カリフラワー 天豆
・フォアグラのムース トリュフをまぶしたボールを崩しながら
▪️活・オマールプルーシヴェ・プラン 春野菜
・ブルゴーニュ産オマールエビ 白ワインソース 桜の形のトリュフを添えて
▪️リ・ド・ヴォー シャンパーニュ キャビア
リ・ド・ヴォー(牛の胸腺肉)とポアロネギ シャンペンソース キャビア添え
▪️ぐじ クリーンアスパラガス 野菜のブイヨンとウフ・コック
・アマダイとアスパラガス トリュフをまぶした半熟卵
▪️仔羊のキャレ 完熟トマト プティポア・ナポリ
・子羊のロースト、フランスのグリーンピース、広島のフルーツトマト、モリーユ茸(キヌガサ茸)
▪️生駒・エッフェ農園・古都華のグラタン オレンジのチュイル
・奈良県ホトカ苺のデザート
▪️アンフュージョン ヴェルヴェンヌ
・ミントのハーブティー
▪️ミニャルディーズ
・プチケーキ4種
前回も2万円のコースだったが、随所でトリュフ、キャビア、フォアグラが使われる。
この様な流れは、ヘソが曲がっている私としては、「こんな物では騙されないゾ」となってきたので、以下はこれらの3つの話はしない。
この店で同じ、似ている、何処かで食べた、と言う様な気持ちになった事が無い。
「フォアグラ カリフラワー 天豆」は崩しながら食べるので、どんどん変わる味を楽しむ事が出来るのは当たり前。美味しいと言う味に集中しないと、ただ味に流されて料理を口にはこうだけになってしまう。
この店の料理は、もちろん下味がついた素材の味を楽しむだけで終わらせない工夫がしてある。例えば「天豆(ソラマメ)」はデカイ事にも驚くが、最初は天豆から始まるが3つ食べ進むうちに、正直言って、天豆料理を通り越して「美味しい料理」になる。
「活・オマールプルーシヴェ・プラン 春野菜」は本日のコースの中で一番素材感が高い皿。プリプリのオマールエビは弾けそうで、濃い味はソースの味を弾き返す力強さがある。付け合わせの調理野菜はそれだけで食べないで欲しいと言わんばかりに、目立つ形に包丁を入れた別の素材が乗せられていたりする。まるで食べ手を視覚的に主たる素材から意識をそらして、組合せの味を楽しむ様に誘導している様にも感じる。付け合わせで楽しんだ後、主菜に戻り楽しんで、「皿」つまり「料理」を楽しんでいる事を自覚する。
「リ・ド・ヴォー シャンパーニュ キャビア」、これはちょっとした驚き。リ・ド・ヴォー(牛の胸腺肉)ってどんな味でどんな食感か思い出すことすら出来ないが、とろける様な滑らかな舌触り、そして静かに染み込んで来る味の波。否が応でも料理に引き込まれる。
「ぐじ クリーンアスパラガス 野菜のブイヨンとウフ・コック」、これは和食の世界に踏み込んだ料理。前回の訪問時はこの位置付けは「鱧の碗」で、極めて和食に近かった。偉そうなことを言わせてもらうと、例えば、ぐじ(アマダイ)を油でソテーしてしまっては台無しになる様な気がする。何故なら、日本人は「ぐじ」の美味しい食べ方を知っている。そう、焼いた皮(京都では鱗も食べる)が旨いのだ。今日の料理は、明らかに「塩焼き」をフレンチとして発展させた皿になっている。それは、見事に調理された鮮やかな緑色のグリーンアスパラガス、これが下3分の1の側面を削り見た目をより美しくした上で、油で調理してツヤツヤさせる事で2本「ぐじ」の横に配置し、
極め付けは半熟卵を直接小さなスプーンですくって食べてもよし、スタッフの説明ではアスパラガスにまぶして食べてもよし、しかも、4分の1カットされた卵の殻に収まった半熟卵の上にはムース状のソースが盛られており、当然これも混ぜた上で食べ進める訳である。「ぐじの塩焼き」をフランス料理に導く技は、付け合わせだけでなく、「強火で焼いたぐじ」の身にかけられたと思われる存在を隠した私には思いもつかない「ソース」ではなかろうか?ため息が出る様な旨味を噛み締めながら食べ終える。
「仔羊のキャレ 完熟トマト プティポア・ナポリ」は黒色の皿にカットしたロゼ色の断面を上にして盛り付けられた3切れの仔羊肉とフランスから取り寄せたと言うグリーンピースの緑色、広島の完熟フルーツトマトの見事なまでの赤色、ソースとモリーユ茸(キヌガサ茸)の深い茶色、カットポテトの薄茶色の「配色」(盛付け)。メインの最後を飾る一皿だ。
早速、仔羊にナイフを入れ口に運ぶと、味より先に驚きが襲いかかる。最近流行りの、オーブンで低温でじっくりと焼いたのであろうか?
それにしても、味、食感のどちらも想像する「肉」のイメージとは異なる。絹の様に細かく感じる肉の繊維、湧き上がる肉の旨味、そして奥歯で噛み締めると肉質をサクッと噛む感触と共にその旨味(肉汁?)があふれ出る様な気がするのだ。
「ぐじ」と言い、「仔羊」と言い焼いただけ?、とんでもない、シェフの技を堪能しながら味を楽しむ。
「生駒・エッフェ農園・古都華のグラタン オレンジのチュイル」は円形の薄いスポンジ台の上にカスタードの様なクリームを塗り半分にカットした苺を盛付けバーナで炙ってから(だからグラタン?)、アイスクリームをトッピングしたもの。
このデザートも単純に説明出来ない、別世界と言うか未経験の味である。香り、味が何層にも重なっている印象なのだ。飲み物で口を洗う等とんでもないと言う気持ちで一口一口食べ進めているうちに完食。
タイミングを合わせる様にティーカップがセットされる。そう言えば、コーヒー、紅茶の希望を聞かれていない事に気が付き、戸惑っているうちに、スタッフがティーポットを持って、「シェフ厳選のミントのハーブティー」との説明がある。
カップに黄金色のハーブティーが注がれると、小さな器で砂糖がテーブルにセットされる。よりコクが出るそうだ、
私は飲み物に砂糖を入れる習慣はないので、そのまま飲むと、又々ビックリ。何という香り、何という甘み、ハーブティーは年に数回しか飲まず詳しくないが、こう言うものがあると分かって、新しい世界が広がったと思う。
「ミニャルディーズ(ひとつまみサイズの菓子)」はプチケーキ4種。もう一杯ハーブティーが欲しくなったが我慢。
今回も最初から最後まで驚きと満足、そして心の底から未経験の未知の味の探求を楽しむことが出来た。