2回
2021/06 訪問
伝統に革新を吹き込む新感覚のすし、世界を見すえる気鋭の風雲児
GEJOは、富山のすしに新風を吹き込む、人気上昇中の注目店。気鋭の若き店主 下條貴大シェフは、「鮨人」やフレンチの「カーヴ・ユノキ」、海外での経験などを生かし、伝統的な寿司にひと味違うアイディアを加えた、新感覚の鮨と料理を創作している。2020年1月に開店し、ミシュランガイド北陸2021特別版で、ミシュランプレートに掲載された。
決して奇抜なことはしていない。安易にトリュフとかを使っているわけでもない。富山の旬の素材を生かしながら、あくまで、伝統的な日本の鮨をベースにして、そこから逸脱しない範囲で、五感に優しくはたらきかけ、新しさを感じさせる独自の工夫を加えている。
GEJOは、「すし」が基本であり、分類は「すし店」だ。ただ、一般的な寿司の手法や枠組みにとらわれない、ジャンルの境を越えたアプローチを志向し、「Japanese Restaurant」と称している。この点については、同じ富山市にある2つ星店「SOTO」にならっているようだ。国内外のレストランとのコラボにも意欲的で、その視線は世界を見すえている。
【料理、味】
自由な発想は、店主の最初の修業先「鮨人」に通じる。熾火を使う手法や料理の鮮烈感は、やはり修業先の「カーヴ・ユノキ」を思わせる。決して尖ってはいない。才気をみなぎらせるような独創性の主張ではなく、優しげな斬新さだ。先人や伝統へのリスペクトもある。丁寧な手間と工夫は、料理一つひとつの細部に行き届き、それは、1杯のお茶にまで及んでいる。
料理は、昼・夜とも、おまかせのコースのみで、6,000円(税サ込み7,700円)、10,000円(同12,100円)、14,000円(同16,500円)の3種類(値段により品数が違うほか、同じすしネタでもキャビアの有無などが異なる)。今回は、10,000円のコース。所要時間3時間15分。
◇料理
1.キジハタ(岩瀬産)
以下、刺身には、能登の珠洲の塩田で作る「角花(かくはな)」の塩、長野県安曇野の石田わさび農園のわさびが添えられている。
キジハタは、肉厚で小気味よい歯ごたえがあり、珠洲の塩で甘みをましている。
2.メダイの昆布〆
メダイには、シーバスリーガルの煮きり醤油が塗ってある。かんでいると身がトロリとしてきて、昆布の旨味に塩の甘味が加わる。
3.アラ(岩瀬産)
朝獲れのアラ。シーバスリーガルの煮きり醤油で。新鮮そのもので、シャキっとしてシコシコの歯ごたえ。店主は「脂が乗っている」と言ったが、そうでもなくて、味わいはタイに似ていた。
4.ホタルイカの沖漬け
ホタルイカは、ほぼ全身の姿がそのままだが、クセや雑味がないように仕事がしてあり、とてもやわらかくて食べやすい。辛口で塩気のある、きりっとした濃いタレがきいている。
5.オコゼ、ハナビラタケ、水蛸(岩瀬産)
甘みと酸味のあるさっぱりしたタレに、パクチー、大根の“かんずり”の辛味を加えた味つけでいただく。オコゼは肉厚で、表面が少しざらざらした感じの食感。水蛸は吸盤がぷちぷちコリコリ。ハナビラタケは、見た目は白いカーネーションのように細かいヒダがあり、サクっとしてシコシコの食感。とにかく、いろんな味と食感が折り重なって、楽しい一品。ベゴニアの花の彩りもきれいだ。
6.茶碗蒸し
土遊野(どゆうの。富山市にある農場)の合鴨の卵を使い、ボタンエビ(新湊産)の茶色っぽいソースがかかっている。
茶碗蒸しといっても、ゆるゆるでスープに近い。上の方は、エビのソースの香りと濃厚な旨味が凝縮している。その下の層からは、卵のやさしい甘みや香草の風味が現われる。
7.ノドグロの熾火(おきび)焼き
魚のスープの茶漬け風で、熾火で焼いたノドグロは脂がのっていて、ぷりっとした身の張りとジュワっとした口溶けと旨味がたっぷりだ。器の底の方には、魚の旨味を濃縮したスープがはってあり、それが赤酢で炊いた「おばあちゃんの家の」コシヒカリにからむ。これは、本日のメインと言うべき、五感に響くおいしさだった。
(ここまでで、1時間15分)
◇握り
最初に出されるのは静岡のお茶。ほのかにやさしい甘みが感じられ、苦みがなくておいしい。
握りは多彩な工夫で変化に富み、全体的に、鮮度感と旨味をバランスよく両立させている。
1.白エビ、サクラの香り
以下、シャリは、土遊野の有機棚田米イセヒカリで、赤酢が基本。結構しっかり握り、炊き加減はやや硬めで粒々した食感があり、ボリュームは小さい。
白エビの時期はほぼ終了近く、「名残り」のネタ。口に入れた瞬間、サクラの上品な香りと風味がふわっと広がり、続いて、白エビの甘みととろける口溶けがやってくる。
2.ボタンエビ
かなり大ぶりのボタンエビで、緑色の子持ち。甘みと口溶けが、きれいで繊細で、上等なエビだ。卵は、それ自体はあまり味がなく、プチプチした食感がアクセントになっている。
3.越中バイ貝
バイ貝は、熾火で表面をあぶってあり、鰹節のような香りが立つ。食べた感じは生に近いが、少し火を入れている分、コリコリの硬さではなく、しこしこした弾力があり、ふくよかな甘みを感じる。貝の身を立体的に盛っているから、食感を口いっぱいに感じられる。
4.サクラマス
天然のサクラマス。鱒寿司らしく、酢でしめて、塩気がかなりきいている。
5.アジ
アジは少し時間をおいて旨味を引き出しているようで、肉厚な上に、マンゴーの半実のカットのように大きめの格子状に飾り包丁を入れているので、口に入れると立体的な食感がなる。
6.スミイカ(1)
今の時期は、イカの旬はスミイカとのこと。表面に細かく包丁を入れて、粒々の食感を出し、かんでいると甘みとともに溶けていく。ちなみに、14,000円のコースでは、これに宮崎県椎葉村で作っているキャビアがつく。
7.スミイカ(2)
奄美大島の塩に煎った京都のゴマでいただく。スミイカは、さっきと包丁の入れ方を変え、縦方向に長く筋を入れて、歯ごたえを出している。塩は甘みを引き出す隠し味で、ゴマが香ばしい。
8.イカで作った味噌汁、富山ブラック
南砺市にある石黒種糀店の糀味噌を使用。見た目は真っ黒。イカと糀味噌の旨味が合わさって、コクのある深い味わいになっている。非常に旨い。
9.イワシ
イワシは、客の目の前で表面に細かく包丁を入れ、厨房の奥で網であぶってから握る。口に入れるとふくよかで香ばしく、イワシがこんなにも旨味、甘みがあるのかと、別の魚のように感じた。
10.マグロの酒粕漬け
マグロは氷見産。マグロ自体はそう特別な味わいではないが、酒粕の風味が加わることで、ありきたりな握りに終わっていない。
11.巻物(GEJOパフェ)
ウニ、中トロ、A5ランクのミスジ、カワハギ、枕崎のカツオ節を炊いたもの、を巻物にした。いろいろな旨味、甘みがからみ合いながら、カワハギのコリコリの食感がアクセントになって、上から下まで、おいしさが続く。
12.デザート
純米の酒粕の羊羹。味も量も物足りなくて、締めのデザートには、もっと力を入れてほしい。
13.お茶
福岡の八女茶。甘みがあって、後味がさっぱりしていて、食後のしめとしてよかった。
【雰囲気】
カウンター8席とテーブル2卓だけのこぢんまりした空間で、町家を改装した和風のしつらえだが、スタンドバー的なカジュアルな感じもする。格子窓のすぐ向こうには、古い町並みを散策する観光客が行き来し、外とつながっている開放感もある。
店主の下條氏は、師匠である鮨人の木村氏と同じく、髪を頭の後ろで結ぶ「ちょんまげ」スタイルだ。師匠へのリスペクトの証のようだ。ネットで見た写真の印象では、どこかニヤけ顔でマイペースな今時の若者のように感じたが、実際は、変人でもチャラ男でもなく、礼儀をわきまえた好青年で、きちんと目標をたてて、やるべきことをきちんとやる人のようだ。
【サービス】
洗い物以外はすべて店主が1人でする「ワンオペ」になっている。それでも、途中でお茶をつぎ足したり、淡々とそれなりに目配りはしてくれた。ただ、料理の提供に非常に時間がかかる。一斉スタートで3時間半前後は長い(「すきやばし次郎」のように30分で3万円(らしい)よりはいいが・・)。アルバイトを雇うよりも、しっかりした右腕か女将さんを捜すのが、この店の当面の重要課題だ。
【CP】
1万2千円でこの内容とクオリティーは、かなりリーズナブルで満足できる。コロナ禍の中でも、わざわざ遠方から来る客が少なくないようだ。
【総合評価、感想】
オーソドックスな寿司に飽き足らない人にとって、かなり新鮮で魅力的だ。アルコールのペアリングで、もっと魅力が増すのだろう。奇をてらったり上辺を飾ったりしただけの料理でない点も好印象で、さらなるポテンシャルが感じられる。
2021/06/27 更新
GEJOは、富山の旬の素材と多彩なアイディアを盛り込んだ新感覚のイノベーティブな鮨と料理を供する人気店。店のホームページには、「No Border」「Japanese Restaurant」とある。若き気鋭の店主は、「鮨人」とフレンチの「カーヴ・ユノキ」で修行し、フランス、スペイン、イタリアを約2年渡り歩いた経験の持ち主。ジャンルと国境を超えた他店とのコラボにも力を入れ、広く国内外に富山の食を発信している。富山のすしの世界に新風を吹き込み、開店から2年あまりで既に富山の名店の一角に食い込み、さらなる高みを目指して飛躍を期している。
【料理、味】
この店の鮨と料理は、型にはまらない新しさがあるが、尖ったり奇をてらったりせず、律儀に和の伝統と日本の鮨の基本に沿っている。店主が修行した「鮨人」の料理を、よりスタイリッシュで変化に富んだものにしたような趣でもあるし、「鮨人」と「SOTO」を融合したようなところもある。丁寧な仕事を施した多彩な料理には、仕事に対する店主の誠実で謙虚な姿勢がうかがわれる。頭の後ろに束ねた髪は、師匠である鮨人の木村泉美氏へのリスペクトの証だ(外国人の客へのアピールの意味もあるそうです)。
コース料理は、最初に料理数品を出したあとに鮨が続く。この点は、料理と握りが混在する「鮨人」とは異なる。昼・夜ともに、10,000円(税・席料込み12,100円)、15,000円(同17,600円)、20,000円(同23,100円)の3種類(内、席料税込み1,100円)。お酒のペアリングは酒8種類で8,800円(税込)で、「満寿泉IWA5」を選択すると値段が上がる。今回は、17,600円+ペアリング8,800円で計26,400円を選択。
お酒のペアリングは、店のスポンサー枡田酒造の満寿泉が中心。メニューには8種類と書いてあったが、実際には9種類出てきて、しかも同じものが2杯追加されて11杯になった。大きなグラスに入れるから少量に見えるが、全体では結構な量になり、酔いが回った。お酒は、グラス単品もいろいろ選べる。
酒1 シャンパン(カナール デュシェール キュブレオニー ブリュット)
すっきりとしながらしっかりした厚みもある白のスパークリングワイン。
料理1.ヒラメとバイ貝
岩瀬のヒラメの昆布締めとバイ貝に、ススタケ(八尾)の昆布締め、焼いたタケノコ(シェフの地元という射水市の黒川)を添え、サンショウの葉と自家製のカラスミを散りばめた。別添えの塩は能登の珠洲の塩、ワサビは長野県安曇野の石田わさび農園のもの。
ヒラメは、昆布の旨味を含んで熟成したとろみがあり、それにカラスミやサンショウの味がからむ。
酒2 満寿泉グリーン純米吟醸 フルーティーな甘みと酸味
料理2.水蛸と桜鯛
新湊の水蛸と岩瀬の桜鯛をさっと湯通しし、蛸の吸盤、アリッサム(アブラナ科の白い小花)、セロリの花、春菊の葉、パクチーを添え、愛知の知り合いが作ったカボスの皮を擦ってまぶした。
水蛸は、みずみずしくすっきりした味わいで、柔らかくて気持ちよい口溶け。吸盤の部位は、こりこりしてパクチーの味をまとっている。桜鯛は、柔らかさと歯ごたえが混じり合う。
酒3 満寿泉純米吟醸 精米割合58%、芳醇な味わいを熱燗で。
料理3.茶碗蒸し
富山市にある土遊野(どゆうの)農場の合鴨の卵と枕崎のカツオブシの出汁を使った茶碗蒸し。ウニ、ズワイガニ、ホタルイカを使ったソースで。
一般的な茶碗蒸しほどには出汁をきかせず、やさしく自然な味わい。それに対して、上にかかったソースは、甘さの中にほろ苦さがあるウニの風味を中心にしたしっかりした味わい。
酒4 満寿泉純米大吟醸 シャルドネを仕込む樽で寝かせた純米大吟醸酒。口当たりがよくすっきりして飲みやすい。
料理4.フグの白子
フグの白子を富山のとろろ昆布で包み、立山産の自家製のフキノトウ味噌と石黒糀店の糀を合わせた。
富山独特のとろろ昆布のおにぎりのように白子を包んだ一品。フグの白子は、滑らかな口溶けで、すっきりして上品な味。それに、とろろ昆布の旨味と塩気などが合わさって奥深い味わいに。
料理5.ホタルイカ
自家製のホテルイカの沖漬け。きりっと辛口の醤油ダレがきいている。いかにも酒好きが喜びそうな味わい。
◇静岡茶
濃い味つけのホタルイカの後の口直しのお茶。
酒5 シャトーベラ リースリング(スロベキア)
リースリングの一般的なイメージよりも辛口で厚みのある味わいの白ワイン。
料理?6 御神酒
白エビのスープ、枕崎のカツオ節の出汁、塩、昆布を合わせたもの。お酒というよりだし汁の味わいを金杯でいただく。
酒6 土遊野 搾り
握り1 白エビ
桜の香りをまとわせた白エビ。シャリは、土遊野のイセヒカリ。
白エビは、桜がふわっと香り、甘くとろける味わいの上に、優雅な薄絹を1枚まとったよう。
握り2 甘エビ
大ぶりの子持ちの甘エビ。シャリは赤酢で、ばあちゃんの家のコシヒカリを使用。
甘エビはぷりぷりして、とろける甘み。卵の緑色が鮮やか。当店の握りは、ネタによって赤酢のシャリと白いシャリを使い分けている。
握り3 サクラマス
富山の海で獲れた天然のサクラマス。脂がのって、ねっとり濃厚な味わい。
酒7 満寿泉リンク8888 シーバスリーガルの樽で熟成した純米大吟醸
握り4 甘鯛
シーバスリーガルの香りを入れた煮きり醤油を使った甘鯛の昆布締め。昆布の風味がしっかり染みて、ねっとりとした旨味と歯ごたえ。
握り5 アジ
シャリは白。アジは、何か味つけしたか熟成させたものなのか、ふくよかで奥行きのある味わい。
酒8 満寿泉 貴醸酒×貴醸酒
満寿泉の貴醸酒で仕込んだ貴醸酒。オークの樽で寝かせ、2段階の発酵で甘味が増す。
握り6 スミイカ
スミイカを細かく刻み、昆布とともにいただく。とろみと粒々した歯ごたえとがある。
握り7 ノドグロ、キャビア添え
満寿泉の貴醸酒に漬け込んで作った自家製のキャビアは、塩分濃度控えめで口当たりがやさしい。ノドグロは、とろける旨味がじわりとあふれる。
料理7 イカ墨で作った味噌汁
奄美の郷土料理イカの「マダ汁」のアレンジ。富山ブラックをイメージし、とろろ昆布とゲンゲを加えた。
じわっとして濃厚な旨味が凝縮したコク深いスープに、とろろ昆布のとろみ、ゲンゲのとろとろの身。濃厚だけどくどくない。店主の修行先「鮨人」のスペシャリテ「魚のエスプレッソ」とは、ひと味違う趣向の一品。
酒9 赤ワイン(ピノ) タンニンの渋味が弱く、軽やかですっきりした味わい。
握り8 サバ
ホタルイカを食べて育つ氷見のサバ。肉厚な締め鯖は、しっかり酢をきかせていながら爽やかな味わいで、さくさくした食感。
握り9 メジマグロ
氷見のメジマグロを酒粕漬けにしたもの。柔らかくしっとしていて、甘みのある旨味が深い。
握り10 バイ貝
バイ貝は、表面を軽く炙って香りとぬくもりがあり、コリコリでふくよかな味わい。
巻物 ウニ、カワハギの肝あん、峯村牛(長野)
パフェに見立てた巻物(GEJOパフェ)。ご飯には、コシアブラ、枕崎の鰹節。上から順に食べ進めるにつれて、いろいろな味が現れてくる。
デザート
満寿泉の純米貴醸酒の酒粕を使った羊羹。酒粕の芳醇な風味と香り。悪くはないのだが、コースの締めくくりとしてはちょっと地味な感じがする。
◇八女茶、水出しの八女茶
最後に2種類のお茶を出すのは、店主の修行先「鮨人」と同じスタイル。
【サービス】
以前は店主のワンオペに近く、料理の提供に非常に時間がかかっていたが、スタッフ2名を配置し、時間が大幅に短縮された。店主は、客と程よい距離感のコミュニケーションと気配りをしている。
【CP】
以前は、若い人が手頃に食べられるように、コースは6千円からとしていたが、さらなるレベルアップを期して、今年になって全体的に5千円ほど値上げした。今回の15,000円のコースの内容は、フグの白子やキャビアなど高級食材を使っていたが、去年の10,000円のコースよりコストパフォーマンスは下がった。食材の高騰や人件費増なども加わり、鮨人、大門、SOTOよりも割高な感じになったが、東京の相場と比べるとリーズナブルなのだろう。
【総合評価】
富山の旬の魚介を使った店は多数あるが、その中でもスタイリッシュで新鮮味のあるユニークな鮨と料理を楽しめるという点で、異彩を放つ。既に富山の名店の一角に食い込んできた感があるが、さらに高みを目指す店主の一段の飛躍が期待される。